CAREER

研究人生の入口へといざなってくれた先生のまなざし|人生を豊かにした出会い #7

有光 興記文学部 教授

私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?

私は関西学院大学で心理学を学び、今田寛先生に指導を受けました。それは、私の研究者人生の大きな糧になっています。中でも一番感謝しているのは、科学的思考とは何かを、身をもって教えていただいたことです。

今田先生は感情に関心をお持ちでしたが、主に学習心理学に基づいて動物を使った実験をされていました。先生が研究を開始された1950年代から70年代では,人間は属性や考えが多種多様で、感情は実験では扱いにくいと考えられていました。学生には「これからは人間を対象にした研究がメインになる」と言って、人間を対象に科学的な検証をするのに欠かせない厳密なアセスメントについて教えてくださったのです。

アセスメントとは客観的な評価や分析のことですが、特に臨床分野の研究では、対象者の症状の重さやその背後にある要因といったものを、客観的に評価しておくことが重要です。現在の心理学では科学的な証拠のある評価法を使用するのが当たり前になっていますが、私が学生だった頃の日本では取り入れている大学はあまり多くなく、最先端の研究法を学ばせていただきました。

教えのありがたみを痛感したのは、アメリカのボストン大学に留学した時でした。持続性うつ病の人を対象にした「慈悲とマインドフルネス瞑想」の研究に参加し、電話や来談、質問紙などを通じた精緻なアセスメントを求められましたが、今田先生から基本を学んでいたおかけで戸惑うことはありませんでした。世界で通用する研究技術を学ばせてもらっていたことを改めて実感したのです。

今田先生は常々「大学院生であっても一人前の社会人として扱う」とおっしゃっておられ、厳しいことは厳しいのですが、その中にいいところも悪いところも受け入れてくださるような優しさがありました。大学院時代の私は活躍されている先輩方になかなか追いつくことができませんでしたが、今田先生だけでなく他の先生方や先輩方はそんな私にも付き合って「それはこうちゃうか」と熱心に自分の考えを語ってくださいました。心理学の研究室があるハミル館のホールにいると、よく声をかけていただいたことが思い出されます。今思えば怒られたことも多かったのでしょうが、それも含めて見守っていただいていると心強く感じました。 関西学院の持つ包容力や寛容さを体現されていた今田先生。幸い教員として本学に戻ってくることができ、私も今田先生のようなまなざしで学生たちを見守っていきたいと思います。

Profile

有光 興記(ARIMITSU Kohki)

関西学院大学 文学部 総合心理科学科 教授。専門は臨床感情科学。関西学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程後期課程単位取得満期退学。博士(心理学)、公認心理師。2017年より現職。著書に『自己意識的感情の心理学』(共編著・北大路書房)、『モラルの心理学』(共編書・北大路書房)、『マインドフルネス:基礎と実践』(分担執筆・日本評論社)、『自分を思いやる練習 ストレスに強くなり、やさしさに包まれる習慣』(朝日新聞出版)などがある。

運営元:関西学院 広報部

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