くっつけてみよう! |聖書に聞く #9
松隈 協関西学院高等部宗教主事
関西学院のキリスト教関係教員が、聖書の一節を取り上げ、「真に豊かな人生」を生きるヒントをお届けします。
あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。
新約聖書 マタイによる福音書5章13節
「あなたがたは地の塩である」。学生時代にこの聖句と出会った方は多いだろう。塩は料理において無くてはならないものだ。塩を欠いた料理は、味気のない料理になってしまう。しかし同時に、塩が自己主張してしまうと、その料理を口にすることはできない。塩は自らを隠す(消す)ことによって、他の素材を結び合わせるという役割がある。たとえば炒飯を作る時、どれだけすばらしい食材で作ったとしても、塩気がなければおいしいものにはならない。食材の一つひとつが、塩によって結び合わせられてはじめておいしい炒飯になる。それは人間においても同じ。よく「コミュニケーション力が大切だ」という言葉を耳にする。「コミュニケーション」の語源は「交流」を意味するラテン語「コムニオン」に由来している。これは「神と人、人と人とを結び合わせる」という意味だ。塩はまさにそのような「コミュニケーション」「神と人、人と人とを結び合わせる」存在である。
現代美術作家である加賀美健さんをご存じだろうか。代表作は、ユーモアあふれる絵と言葉で挑むナンセンス絵本「くっつけてみよう」。「りんご と めがねで めがりんご」「くつした と いえで いえした」「さめ と はぶらしで はめ」「ひよこ と いぬで ひぬ」など実にくだらない。しかしくっつきそうにないものをくっつけてみるのはとても興味深い。私は高等部の聖書科の選択授業で「Jポップと絵本とキリスト教」という授業をしているのだが、そこにいる30人の受講者に「世界の役に立つもの」というお題でくっつけてもらった。私が好きだった作品を5つ紹介する。「本とキツネでホンコン」キツネは害を与える動物として考えられているが本をもつことで良いキツネになり、害を与えなくなる。「傘とバードでカード」どんなところでもきてくれて濡れることがない。「スギの木と掃除機でソウノキ」花粉対策として多くの人が助かる。「蛍光灯とトンボでケイボ」電気のない村に電気が灯る。「ミサイルとバイブルでミサブル」ミサイルと聖書がくっついたらミサイルの人を殺す機能はなくなるのではないか。
くっつきそうにないものをくっつけてみるのは、とても興味深い。そしてくっつけることで、結び合わせることで、別々の存在であった時よりも良いものになる。あるいは悪いものがなくなる。アップル創業者のスティーブ・ジョブズも『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』という本でこう語っている。「創造力とは、いろいろなものをつなぐ力だ。一見すると関係のないように見えるさまざまな分野の疑問や課題、アイデアやひらめきを上手につなぎ合わせる力だ」。これはまさに「地の塩」とは、結び合わせる存在であるという聖書のメッセージではないか。くっつきそうにないものをくっつけてみよう!
Profile
松隈 協(MATSUKUMA Kanau)
1968年生まれ。関西学院大学神学部、西南学院大学神学部専攻科卒業。教会牧師・幼稚園主事をスタートに、学童保育指導員、梅光女学院中高宗教主任を経て、関西学院高等部宗教主事に就任。特技はギター弾き語り、曲作り。第12 回赤池町童謡子どもの歌創作曲コンクールでグランプリ受賞。著書『もういいかい』『あなたに逢いたい』(日本キリスト教団出版局)。
運営元:関西学院 広報部