自分たちで考えるから必要なことがわかる。“もしも”のときに活きる「防災まちづくり」

RESEARCH

自分たちで考えるから必要なことがわかる。“もしも”のときに活きる「防災まちづくり」

地震や豪雨など、近年の日本はさまざまな災害に見舞われています。災害のリスクを分析する技術は年々、高まってきているといわれていますが、それらの情報を活用してどう対策するかといった実践面での取り組みは、まだまだ充分に進んではいないようです。とるべき行動は、地域の状況によっても違うもの。でも、いざというときの避難体制やマニュアルは、行政頼みということはないでしょうか。減災システムや防災まちづくりなどをテーマとする照本清峰先生の研究をもとに、自分たちにできる事前対策を考察します。

Profile

照本 清峰(TERUMOTO Kiyomine)

関西学院大学建築学部教授。博士(都市科学)。防災科学技術研究所総合防災研究部門特別研究員、和歌山大学防災研究教育センター特任准教授、徳島大学環境防災研究センター特任准教授、人と防災未来センター 研究部研究主幹などを経て現職。主な研究テーマは、「都市・地域の減災性能に関する実践的アプローチを通じた方法論の構築」「災害の復旧・復興過程と支援方策のあり方」「広域巨大災害に関する効果的な災害対応システム」など。

この記事の要約

  • 災害が起こる前から、総合的なマネジメントの仕組みをつくることが重要。
  • 地域住民と一緒に考えることで、地域にふさわしい防災の対策が根づいていく。
  • 良い防災モデルを他のエリアにどのように広げていくかが今後の課題。

天災による被害を減らすことの重要性が、より広く認知されるように

日本は言うまでもなく地震大国です。南海トラフ地震、首都直下地震は、今後30年以内に発生する確率が70%と予想されており、これら災害にどう備えるかは重要な社会課題です。1995年に阪神・淡路大震災が起こってからは、「防災」に加え「減災」という言葉もよく耳にするようになりました。

「文字どおり、天災などによる被害を防ぐのが防災で、減らすのが減災ではあるのですが、そもそも自然災害をゼロにするのは不可能です。防災も減災も、できるだけ被害を減らすことをめざしているのは共通しているので、厳密に使い分けるものでもありません。ただ、震災を踏まえ、被害を減らすことの重要性が、より広く認知されるようになってきていると感じます」

かつて防災といえば、構造物の耐震化などハード面の対策が中心。しかし阪神・淡路大震災の発生以降は、災害が起こったときにどう対応していくかといった、ソフト面も重要だという認識が広まっていったと振り返ります。

「災害が発生すると、人命救助や被災者の生活支援といった緊急性が高い支援がまず行われ、その後、インフラ復旧、都市計画、仮設住宅の建設などを経て、まちは復興していきます。このような一連のプロセスをスムーズにつなぎつつ、被災された方を適宜ケアしていく、総合的なマネジメントの仕組みも確立させなければならない部分です。災害が起こってから制度をつくるのではなく、事前から全体をコーディネートできるような体制を構築しておくことが重要なのです」

小学生を津波避難訓練のスタッフにすることで、防災意識が向上

照本先生がさまざまな地域へと足を運び、進めているのが、防災まちづくりに関する研究。災害が発生した際、地理状況や地域システムの脆弱な部分を見つけて対策を考え、どうすれば被害が少なくなる仕組みを根付かせることができるかに取り組んでいます。

「例えば津波避難対策といっても、津波が襲ってくるまでの時間が15分なのか1時間なのかによって、適切な対応が違いますよね。その地域の空間的な要素、避難場所から最も遠い地区がどれぐらいで、どこだったら行けるのか。避難場所と避難ルートの関係など空間的な要素と、それに対して地域の人たちがどういう避難体制を取るかといった社会的な要素を考慮することが必要になります。有事の際には、単に早く避難するよう通知するのではなく、高齢者や身体の不自由な方だけは車を使っていいと情報提供するなど、それぞれの指標を定めていくことが大切です」

自然災害の減災効果を高め、地域にふさわしい仕組みを構築するためには、さまざまな視点からの考察が求められます。そのため、住人のみなさんに話を聞くことや、ワークショップを開いて考えてもらうことも大切にしていると、照本先生は言います。

「和歌山県海南市の黒江地区では、住民の方々とワークショップを進めていくなかで、学校と一緒に防災の取り組みをしたら相乗効果があるのではというアイディアが出てきました。そこで小学校の児童たちが、自分たちが住む地域を回り、『地震が起こるとここが危なそうだ』といったところを調査。地震後を想定した津波避難訓練では、それぞれの場所にスタッフとして立ってもらい、この道路は家が壊れて通れないとか、この階段は崩れて上れないといったことを、住民に説明する役割を担ってもらったんです。小学生が関わることで、普段はあまり防災活動に積極的ではない30代、40代の保護者世代も、積極的に参加してくれるようになり、以降、その取り組みが継続されるようになりました」

和歌山県海南市では、津波避難訓練に児童がスタッフとして携わり、まちぐるみで減災への意識を高める

地域の人たちと考えた仕組みをどう社会実装し、他地域に展開するか

各地域で行う防災に関するワークショップは、学生たちと一緒に取り組むことも多く、そこから浮かび上がった問題を検証し、課題解決をめざしていると言います。

「少し前に実施した、ある地区でのワークショップでは、年配の男性から『避難所なんて雑魚寝でもいい』『トイレなんて外ですればいい』『災害時に女性への配慮なんてできる余裕がない』といった発言があったんです。それには進行役を担当した女子学生も衝撃を受けたようで……。昨今はジェンダー意識が高まっていますが、それでも世代や性別によって認識に違いがある。そんな課題が見えてきました。」

このことをきっかけに、南海トラフ地震を想定したアンケート調査を実施。男性と女性の認識の違いを分析していきました。

各項目について「まったく不安ではない」を1.0、「どちらかといえば不安ではない」を2.0、「どちらともいえない」を3.0、「どちらかといえば不安である」を4.0、「非常に不安である」を5.0として算出。
公益社団法人日本都市計画学会『都市計画論文集』Vol.58 No.3「災害発生後の避難生活環境における女性への配慮に関する不安感と対策意向の関連構造 ‐和歌山県印南町切目地域を事例に」より(2023 年10 月)

「避難生活環境のマネジメントには、男性も女性も関わるべきかどうかという設問を用意したところ、関わるべきだという回答が圧倒的に多く、そこに男女差は見られませんでした。しかし、女性がマネジメント体制に関わることで、女性への配慮はできるかどうかについては、できると考える男性が多いのに対し、女性はそれだけでは不十分と考えていました。検証の結果、何人もの高齢男性が取り仕切る地区の会議に、女性が一人だけ入っても、その意見を通せるはずもないということが浮き彫りになりました。それならば事前に、女性をはじめとする、声を届けづらい人にも配慮した避難生活環境のマニュアルを用意しておく必要があると、学生たちは結論づけました」

まずは地域の人々の認識を把握し、何が欠落している部分を見つけだすこと。そして、その部分を埋めていくような情報提供や対策のあり方を示していくことが大切だと照本先生は指摘します。

「地域の人たちと一緒に考えた仕組みをどう社会実装し、他地域にどう展開させていくか。一つ良いモデルができても、日本全体に広げていくのは大変なことです。そもそも地域ごとに自然条件や地域組織も違いますが、防災研究者の人数は限られています。すべての地域を網羅するのは難しいですが、研究の成果をうまく展開させるため、産学官民の連携についても模索しているところです」

もう何年にもわたり、いつ起こっても不思議ではないと言われ続けている南海トラフ地震。日本では海溝型の巨大地震が100年~200年間隔で起きています。エネルギーを蓄積する静穏期を経て、1995年以降はすでに、大地震が起こりやすい活動期へと入っており、決して他人事ではありません。

「阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大きな災害をすでに経験したことで、『自分が生きているうちは、もう起こらないだろう』と想像しがちですが、これで終わりだとは考えないことが大切です。とくに30代、40代の方なら、目の当たりにする危険性が極めて高いことを認識しておいたほうがいい。大きな自然災害は、今後も必ず起こります。それに対しての備えは、それぞれの立場や状況に応じて考えていただきたいです」

取材対象:照本 清峰(関西学院大学 建築学部 教授)
ライター:三浦 彩
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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