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「行動経済学」を実生活にいかすことが、精神的な豊かさにつながる|学問への誘い #1

黒川 博文経済学部 准教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

私が専門としている「行動経済学」は、経済学に心理学等の知見を応用した学問分野です。私がこの学問に出会ったのは、浪人生の時に『行動経済学:経済は「感情」で動いている』(友野典男著)という新書を読んだことがきっかけでした。それまではただ漠然と経済学部を志望していたのですが、この本を読んで、経済学に心理学の要素を取り入れたものがあると知り、学びたいことが明確になりました。

私は関西学院大学の経済学部に進学しましたが、他学部の科目を履修できる制度(※)を利用し、経済学部に在籍しながら、文学部で心理学も体系的に学びました。3年次からは経済と心理の2つのゼミに在籍し、卒業論文も2本書いたので大変でしたが、経済学も心理学もそれぞれ興味深く、夢中で学びました。経済学は数理モデルで世の中を描写し、考えるおもしろさがありましたし、心理学は実験をして実際にデータを取って検証していくのが楽しかったですね。

※複数分野専攻制度。他学部の専攻分野を体系的に履修できる制度。自学部の学びと並行して他学部の専攻分野を履修し、最短4年間で2学位取得をめざすマルチプル・ディグリーもある。

ちなみに、伝統的な経済学では、「人は自分の利益のみを最大化するために行動する」といった、少し極端に思われるかもしれない仮定を置いて人間行動を分析します。そのため、現実には経済学のモデルではうまく説明がつかない現象も出てきます。そんなとき、心理学や社会学、人類学、脳科学などの知見を応用することで、経済学のモデルで人間行動をよりうまく分析できるようになります。数理モデルを使った理論的な分析だけではなく、データを用いて因果関係を明らかにしようとする実証的な分析も行うところが、行動経済学のおもしろさだと思います。

あらゆる人間行動が行動経済学の分析対象なので、仕事や暮らし、子育てなど日常のいろいろな場面で活用できます。もし興味を持たれたら、まずは読みやすい入門書を読んでみて、専門的な本に進んでいくと良いかと思います。その時に大切なのは、必ず参考文献が記載されている本を選ぶこと。さらに、参考文献が書籍ではなく論文であることが大事です。やはり原典をちゃんと読んでいる人の本は、情報源として信頼できますから。

私自身は、行動経済学の研究に取り組んできたことで、さまざまな豊かさを得ることができました。たとえば幸福度に関する研究をしていると、「こういうものが幸福につながっているんだ」と知ったり、気づけたりする機会もあり、結果的に精神的な豊かさにつながっていると思います。また、経済学ならではの合理的な考え方、ものの見方を身につけたことで、物質的、経済的な豊かさにもつながっているでしょう。学問を実生活にいかすことで、私自身もウェルビーイングが高められていると感じます。

Profile

黒川 博文(KUROKAWA Hirofumi)

関西学院大学経済学部准教授。博士(経済学)。関西学院大学経済学部卒業後、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程・後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、兵庫県立大学国際商経学部准教授などを経て、2023年4月より現職。専門の行動経済学、実験経済学について研究を行うだけでなく、ビジネス雑誌への寄稿や書籍などの執筆も手掛ける。著書に『今日から使える行動経済学』(共著、ナツメ社)などがある。

運営元:関西学院 広報部

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