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家族法が教えてくれた、個人の問題は社会の問題でもあるという事実|学問への誘い #2

山口 亮子法学部 教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

決して真面目ではなかった大学時代。何気なく入ったのが家族法のゼミでした。家族法とは六法の一つである民法の一部で、親族法と相続法から成り立ちます。一夫一婦制、結婚したら同じ姓を名乗る、法定相続分は配偶者が2分の1……。そんな日本社会のルールを規律するとともに、離婚や相続などで問題が起きた際、どう裁判を行い、判断をくだすのかなどの要件を定めています。だから、家族法はとても身近な存在といえます。

大学院で先生から勧められた研究テーマが「子どもの権利条約」でした。1989年に国連で成立し、ちょうど日本が加盟するかどうか検討されていたころのことです。「子どもには父母のいずれとも交流を維持する権利がある」。そううたわれていた条約への関心から、親族法に規定された親権について、アメリカの家族法と比較しつつ研究を進めるようになりました。比較することで視野は広がります。他国であろうと、同じ人間社会のことです。「制度や文化が違うから」で終わらせず、参考にすれば現状の改善へと生かせます。

家族法は、身近な問題を扱っていますが、やはり社会の問題として捉える必要があります。フェミニズムのスローガンに「個人的なことは政治的なこと」という言葉がありますが、家族法も同じです。社会の中で生きづらさを抱えているのはその人個人の問題と思いがちですが、社会的な問題なんだという捉え方をしないといけない。個別の訴えから違憲判決が出て、法改正へとつながる事例も数多くあります。社会は変えられないと思い込まれているかもしれせんが、社会も法律も変えられます。

「女性だから結婚後、氏を変えることはやむを得ない」「離婚して親権がないから子どもに会えなくても仕方がない」「同性愛者という少数派だから結婚はできない」という個人的な諦めは、その国特有のことかもしれません。社会問題として家族法についても関心を持っていただければ、法律の見方も変わってくるでしょう。

Profile

山口 亮子(YAMAGUCHI Ryoko)

関西学院大学法学部教授。博士(法学)。山梨大学助教授、京都産業大学教授などを経て現職。フロリダ大学ロースクールやペンシルべニア大学ロースクールで客員研究員を務める。専門分野は民法の家族法。研究テーマは親権、面会交流、児童虐待防止、ハーグ子奪取条約、児童の権利条約など。また、アメリカの家族法と日本の家族法を比較検討しながら、国家と家族の関係、あるいは国家と親と子どもという三者関係から問題を捉え、個々の課題を検討している。著書に『日米親権法の比較研究』(日本加除出版)など。

運営元:関西学院 広報部

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