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法学は「調整の学問」。多面的で柔軟なものの見方が身につく |学問への誘い #3

谷川 和幸法学部 教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

情報化社会における知的財産法、とりわけ著作権法に関する現代的課題を研究テーマとしています。私がこの分野に関心を持ったのは、中学生の頃でした。当時はインターネットの黎明期。Winnyというファイル共有ソフトが登場するなど、音楽や動画といったコンテンツの無断利用が横行していて、「このままでいいのかな」という疑問を感じていました。

新聞やテレビでも、インターネット上の著作権侵害の問題が日々取り上げられていました。著作権というものがあるにもかかわらず、守られていない。法はどうあるべきなのか。そんなことを考えながら、法の執行状況や、法の実社会への適用に対する関心が深まっていきました。

法学部に進学し、法学を基礎から幅広く学んでいく中でも、やはり特に関心を持って取り組めたのは、自分にとって身近な例が多い知的財産権や著作権の分野でした。インターネット上でどのようなルールが適切か、どんな法律を作って適用していくべきか、日本の法律だけでは対応に限界があるのではないかといった関心を持ち続けて研究を進めてきました。

今はYouTubeやTikTokなどのサービスを使って、誰もが気軽に情報発信できる時代。著作権はより身近な存在になっています。著作権の知識があれば、他人の権利を侵害せずに安心して利用できますし、自分のコンテンツが無断利用された場合にも対応できますから、両方の観点で知っておくことが日常生活にもビジネスにも必要ではないでしょうか。

最近よく話題になっている生成AIと著作権の問題も、これからの時代に仕事をしていくうえで、多くの人にとって関わりのあることでしょう。社会全体の制度設計として、AIをどう推進していくのか、どのように規制するのか。大きな視点で物事を捉え、社会の方向性を見極める必要があります。

著作権を重視して規制を強化するべきだという慎重な姿勢もある一方で、社会の発展に寄与するためにAI開発を積極的に推進していく考え方もある。さまざまな利益状況の人がいる中で、各人の利益をどう調整するのか。バランスを見ながら考えていく必要があるため、私は法学を「調整の学問」だと捉えています。法は硬直的なものだと捉えている人が多いかもしれませんが、実際は時代と共に変化していく柔軟性を持ったものなのです。

私自身は、法学を通じて多面的な見方ができるようになり、自分のこだわりや思い込みをほぐすことができていると感じます。いろいろな立場の人の意見を聞きながら、時代に応じて柔軟に変化していける。それが法学という学問の豊かさではないでしょうか。

Profile

谷川 和幸(TANIKAWA Kazuyuki)

関西学院大学法学部教授。法務博士(専門職)。京都大学大学院法学研究科修了。福岡大学などを経て、2021年4月に関西学院大学へ。2023年4月より現職。著書に『教育現場と研究者のための著作権ガイド』(共著、有斐閣)、『リンク提供行為と著作権法』(単著、弘文堂)など。

運営元:関西学院 広報部

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