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経済学は冷たいようで、実は優しい学問|学問への誘い #6

猪野 弘明経済学部 教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

高校生くらいになると、世の中のことを知りたくなりませんでしたか? 私も当時いろいろな本を読んでいて、その中に特に気に入った本がありました。それは、東京大学名誉教授の故・見田宗介先生が書かれた『現代社会の理論』(岩波書店)です。見田先生の考え方・見方がすごく刺さり、学問は包括的にものごとを見るもの、断片的なことや個々の事例ではなく社会の全体像を眺められるものなんだと興味を抱きました。そこで大学は経済学部に進んだのですが、実は見田先生は経済学者ではなく社会学者。勘違いをしていました。

それなら経済学の考え方で世の中を見てみようと学びはじめたところ、全体像を見る点や数式を使うのでごまかしがない点など、経済学が自分の肌にぴったりと合ったんです。経済理論を用いて世の中を読み解くことにはまりました。

経済学は人間の行動を科学的に分析しようとする学問で、その際の行動基準を損得勘定に置いています。「人間は損得勘定だけじゃない、愛など他の感情もある」と批判されるかもしれません。もちろん、そういう感情があることは、われわれもわかっていますが、あえて捨象しています。人は損得勘定だけで動くと仮定したらどうなるか、社会はどうなるかを突き詰めているのが経済学だからです。

なんて冷たい学問だと思う人もいるかもしれませんが、逆に私はそこがよいと思っています。愛など人間の大切な部分については科学で踏み込もうとせず、きちっと線引きしている。実は経済学は優しい学問なのです。

私は、学問が人生を豊かにするという点では誇りを持っています。日々の更新が必要となる知識と異なり、真理を突いている学問は10年、20年、場合によっては孔子の『論語』のように何千年も残る。一旦身につければさまざまな場面で応用できます。多くの人たちががんばってつくりあげてきた知恵であり、学ぶ価値のあるものだと私は思っています。

Profile

猪野 弘明(INO Hiroaki)

関西学院大学経済学部教授。東京大学大学院博士後期課程修了、博士(経済学)。専門は応用ミクロ経済学、産業組織論、環境経済学。著書に『ミクロ経済学』(共著、東京大学出版会)、『世の中を知る、考える、変えていく:高校生からの社会科学講義』(共著、有斐閣)など。

運営元:関西学院 広報部

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