失われた「当たり前」を再創造していくために。災害ボランティアのあり方を考える

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失われた「当たり前」を再創造していくために。災害ボランティアのあり方を考える

災害大国と呼ばれる日本では、地震や豪雨など毎年のように大規模な自然災害に見舞われています。そして遡ること阪神・淡路大震災が起きた1995年は「ボランティア元年」と言われ、今では災害ボランティアの存在が広く浸透しました。では実際にボランティアは、被災地でどのような役割を果たしているのでしょうか。他エリアの人間が被災地・被災者に関わることには、どのような意義があるのでしょうか。今回は、災害復興やボランティアを研究テーマとしている関嘉寛先生の話から、災害ボランティアのあり方について考えます。

Profile

関 嘉寛(SEKI Yoshihiro)

関西学院大学社会学部教授。博士(人間科学)。大阪大学大学院助教などを経て、2009年に関西学院大学に着任、2011年から現職。専門はまちづくり、ボランティア、災害復興、社会学。新潟県中越地震で被災した集落における住民参加型復興のあり方の参与観察(共に行動することで情報収集する方法)、東日本大震災の被災地でのボランティアや支援のあり方の調査などを行っている。

この記事の要約

  • 災害は社会学的な課題を顕在化させる。
  • 被災とは日常生活を支える「自明性の解体」であり、復興とは「自明性の再創造」である。
  • 外の世界から来た他者との出会いは、被災者にとって新しい自分への気づきや発見につながる。
  • 既存のボランティアの仕組みや制度からこぼれ落ちてしまう人たちに目を向けることも重要。

災害によって解体された自明性=当たり前を再創造する

大学院時代に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、災害ボランティアに関心を持つようになったという関先生。以来、30年近くにわたって、被災地に足を運びながら災害復興やボランティアについて研究しています。関先生は社会学の視点から災害をどのように定義しているのでしょうか。

「私は社会学を『暮らしに関わる学問』だと捉えています。災害は、人々の暮らしに大きな影響を与えるもの、今までとは違う暮らしを突然強いるものです。たとえば、電気・ガス・水道といったインフラの問題だけでなく、教育、医療・福祉、地域文化、コミュニティなど、これまでは意識してこなかったさまざまな社会学的課題を顕在化させるのが、災害の一つの作用だといえるでしょう」

災害によって、日常生活の中でつくり上げてきたルーティンが失われることを、関先生は「自明性(=当たり前/いつも通り)の解体」と表現します。

「以前、東日本大震災で被災された方から、こんな話を聞きました。彼女は、震災前は自他ともに認める『がんばり屋』だったそうです。でも、震災後は『今日がんばっても津波が来たら全部なくなってしまうと思うと、踏ん張りがきかない』と。つまり、『今日あることは明日もある』と疑いなく過ごしていたのに、ほぼ一瞬にして震災前の暮らしが失われてしまったことで、日常生活を支える自明性が解体されてしまったのです」

被災とは「自明性の解体」であり、その解体されてしまった自明性の「再創造」が復興であると、関先生は続けます。 「私は、新しい自明性を再創造していくプロセス自体が、復興のあり方ではないかと思っています。『これで復興した』と言えるようなゴールがあるわけではなく、ふと立ち止まって振り返ってみたときに、『自分たちの当たり前ができあがったな』と感じられることが復興ではないでしょうか」

共に過ごし、共に考え続ける「自分らしく生きる」への一歩

関先生は、「自明性の再創造」には外部で構成される災害ボランティアの存在が重要だと言います。でも、瓦礫(がれき)の撤去、片付けや清掃、炊き出しといった作業ならイメージしやすいですが、「自明性の再創造」と言っても具体的にどうすれば良いのか想像しづらく、なんだか難しいイメージがあります。そんな感想を漏らすと、関先生は「確かに難しいですね」とうなずきつつ、図を使って詳しく説明してくれました。

関先生の資料をもとに作成

「私たちの日常生活は、①生存権=生存するための条件、②社会権=安心して暮らすための条件、③自由権=自分らしく生きるための条件という3つの条件によって支えられています。①生存権や②社会権に関わる物理的・経済的な支援は、イメージしやすいし成果も見えやすい。つまり“誰かがわかっているニーズ”といえます。一方、③自由権は、当事者にとっても第三者にとっても、なかなかわかりづらい部分です。①生存権、②社会権と比較するなら、③自由権は“誰にもわからないニーズ”となります。でも、災害ボランティアはこの③自由権の部分で大きな役割を担うことができると、私は考えています」

実際に、関先生は学生たちと一緒に、被災地の子どもたちと遊んだり、被災地の方が学生たちと話すきっかけにもなる足湯を提供したり、地域の夏祭りを手伝ったりする活動を行っています。これらは、①生存権や②社会権に関わるような、成果がわかりやすい活動ではないものの、災害ボランティアと被災者の関係性をつくっていくために重要な活動であり、③自由権、つまり被災した方たちが「自分らしく生きる」ためのきっかけにつながっていると、関先生は語ります。

自由権に関するニーズは、すでに表面に見えているものだけでなく、当事者も第三者もまだ気づいていない潜在的なものがあります。またそれは、人によっても捉え方が異なるため、「誰にもわからない部類に該当する」と言う関先生。

「だからこそ、一緒に過ごしていく中でニーズの存在に気づく、あるいはニーズが満たされていく、そんな関わり方が大切だと考えています。東日本大震災の被災地である岩手県野田村で、私たちは13年ほど活動を続けています。学生は卒業していくので毎年メンバーは変わりますが、関係をつなげていくことで、私たちの活動や被災者の方たちとの関係性がいつの間にか『当たり前』になっていく。そばに居続けることが、『自明性の再創造』につながる。それが災害ボランティアの重要な役割だと思います」

他者との出会いが、新たな気づきにつながる

被災者とボランティアによって新たな人間関係を築くことで、どのように「自明性の再創造」につながっていくのでしょう。

「たとえば私の場合、大学の教員で、ある地域に住んでいて、普段はとても限定された世界で生きています。災害ボランティアの活動は、そういった自分の当たり前の世界から飛び出していくことです。反対に、被災地の方にとっては、自分の当たり前とは全然違う世界に住んでいる人たちが、外からやって来るということです。人間は、他者とのやり取りの中で自分のアイデンティティを見出していくもの。つまり、外の世界から来た他者との出会いは、新しい自分への気づきや発見のきっかけになるのです。それこそが、外部の人がボランティアに行く意義ではないでしょうか」

実際に被災地では、「自分たちに関心を寄せて、遠くからわざわざ来てもらえることがうれしい」「こんなに高齢になってから、若い人たちといろんな話ができて楽しい」といった声があり、外の世界との交流によって新たな希望を見出す様子が見られると関先生は話します。一方で、外部の人ではなく地元の人たちにしかできないことも多いと続けます。

2024年7月、能登半島地震の被災地を学生とともに訪問。仮設住宅団地の集会所での談話の風景

「インフラや経済、教育、コミュニティなど、生活の基盤を物理的・心理的に支えているものに関しては、行政や地元の人たちが継続的に関わっていかないと成立しないことは、もちろんたくさんあります。あくまでも外部者ができるのは、違う視点を提供したり、ブレークスルーのきっかけをつくったりすることなんです」

現場の人たちと問題意識を共有し、解決策を一緒に考え、実践を繰り返していく関先生の研究手法は、アクションリサーチと呼ばれています。関先生は、このアクションリサーチの手法を用いて、被災地だけでなく西宮市や尼崎市の地域活動にも携わっています。

「地域によって課題もアプローチ方法もまったく違うため、個別性や具体性に目を向け、現場の方たちのお話を聞きながら一緒に考えていくことが重要です。そして最も大切なのは、地域の方たち自身がどんな気づきを得られるかだと思っています。こうした実践を通じて、私自身もこれまでの研究を理論的にさらにブラッシュアップしていきたいですね」

阪神・淡路から約30年。災害ボランティアの現在地

災害復興やボランティアに関する研究を長く続けてきた関先生は、この30年の災害ボランティアの変化をどのように感じているのでしょうか。

「1995年の阪神・淡路大震災で多くのボランティアが活躍したのをきっかけに、災害ボランティアの存在が日本で広く認識されるようになりました。さらに、2011年の東日本大震災を経て、ボランティア活動をコーディネートする『災害ボランティアセンター』や『全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)』が設立され、災害ボランティアが普及し、一般化していったのは良い変化ではないかと思います」

しかし一方で、このようにボランティア活動の枠組みがつくられ、規格化・効率化していくことによる弊害もあるのではないかと指摘します。

「今年起きた能登半島地震や、コロナ禍に各地で相次いだ豪雨災害では、『ボランティアが不足している』という声が多く聞かれたように、近年は『ボランティアはこうあるべき』と枠にはめるような考え方や、単なる安い労働力として捉えられる風潮があると感じます。ボランティアとは本来、自発的な活動であるはずなのに、どんどんシステマティックになっていくことで、そこからこぼれ落ちてしまう人が出てくるのではないかと危惧しています」

では、私たちは災害ボランティアのあり方が変化していることを知るとともに、どんなことに気をつければ良いのでしょうか。また、実際にボランティア活動に参加してみたいと思ったときには、どのように取り組めば良いのでしょうか。 「効率化・仕組み化されたボランティア活動だけでなく、誰も気づいていないような1人や2人にも目を向けていくことが重要だと思います。実際にボランティア活動に参加する場合は、現地や今住んでいる地域のボランティアセンターに問い合わせてみるのも1つの方法ですし、たとえば子ども・高齢者・障がい者・外国人など、何かテーマを持って支援活動をしたいなら、インターネットやSNSを通じて関連するNPOなどの団体を探してみるのもいいでしょう。ぜひ自分に合った方法を考えてみてください」

取材対象:関 嘉寛(関西学院大学 社会学部 教授)
ライター:藤原 朋
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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