CAREER

学びのコミュニティでこれまでの価値観を打ち破る|大人のための学びの心得 #2

松本 雄一商学部 教授

目まぐるしい速さで世の中が変わる今、社会に出てからも学び続けることを意識している方は多いのではないでしょうか。“大人の学び”で得た知見やスキルはキャリアアップだけでなく、これからの日々をより豊かに生きるための糧になるかもしれません。そこで学び続けることを体現する研究者たちに、学びのコツを教えてもらいました。

私が学ぶうえで大切にしているのは、学びに関する工夫や心得を持っている人を探し、その人の話を聞くことです。学びを効果的にするには、「7対2対1の法則」というものがあります。「ロミンガーの法則」とも呼ばれており、7割が直接経験、2割が代理経験、1割は読書が該当します。直接経験が一番重要とはいえ、人の時間は限られています。代理経験では「その人の解釈を経た経験」を得られることが大きなポイントです。いわゆる薫陶というものです。読書は1割とはいえ、その1割を有効活用することで、多くの知識や経験を得ることができます。今、この「月と窓」を読んでくださっているみなさんは、まさにこの1割を利用しているということです。

私は組織内外に構築する学びのコミュニティ「実践共同体」の研究者ですが、研究に至るきっかけは学部時代の演劇部での経験にあります。演劇、芝居を「人に教える」のはとても難しいことでした。正解もわからないし、とにかくやってみるしかありませんでした。そんな中、出会ったのが経営学におけるスキル・技能の研究で、実践共同体はその中のトピックのひとつでした。学びのコミュニティである実践共同体では、年齢やスキルの高さなどを超越したフラットな関係の中、「みんなで学ぶ」ことで大きな成長が得られます。

もう一つ、大人の学習に必要なのは「変容的学習」です。子どもの学習は知識やスキルを得るためのものですが、大人の学習はそれだけではなく、無意識に構築してきた価値や信念などのパースペクティブ(視点、見方)を変えることで「今まで学んだことが当たり前ではなかった」、また逆に「自分の生き方はこれでよかったんだ」と気づくことができます。

30代、40代のビジネスパーソンはひとつのキャリアやこれまでの価値観から自由になってもいい年代だと私は思います。大人の実践共同体で多様なキャリアの人々に出会うことで、自分自身を肯定し、また自分は一人ではなかったと気づけることこそ、この時期の発達課題ではないかと思います。

Profile

松本 雄一(MATSUMOTO Yuichi)

関西学院大学商学部教授。博士(経営学)。北九州市立大学経済学部経営情報学科助教授、関西学院大学商学部准教授を経て現職。専門は経営組織論、人的資源管理論。主な研究テーマは実践共同体による人材育成、組織における技能形成。『学びのコミュニティづくり ―仲間との自律的な学習を促進する「実践共同体」のすすめ』『ベーシックテキスト 人材マネジメント論Lite』『ベーシックテキスト 人材開発論Lite』(同文舘出版)ほか、著書多数。『実践共同体の学習』(白桃書房)が2019年度日本経営学会賞(著書部門)研究奨励賞を受賞。

運営元:関西学院 広報部

この記事が気になったら、
感想と共にシェアください

  • X(Twitter)
  • Facebook
  • LINE
  • URLをコピー