品種改良に関する正しい知識から食糧危機を考える|学問への誘い #8
宗景 ゆり生命環境学部 教授
世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。
地球温暖化が農業に与える最大の影響は干ばつです。温暖化が進めば、これまで栽培してきた農作物が育てられなくなる地域が増え、世界中で食糧危機が起こると予想されています。そこで、アメリカをはじめ各国で進められているのが「品種改良」の研究です。
植物の光合成にはC3(シーサン)型とC4(シーヨン)型があり、イネ(米)、小麦、大豆、ジャガイモが分類されるC3植物は高温、乾燥に弱く、乾燥が進むと光合成ができなくなります。一方で、トウモロコシやサトウキビが分類されるC4植物は効率よく光合成を行うことができ、干ばつにも強い。このC4植物の特性をC3植物に自発的に出現させる、いわゆる「品種改良」のための基礎研究に私は取り組んでいます。
品種改良といっても方法はさまざまです。種を超えた遺伝子を組み込む「遺伝子組み換え」、人為的にDNAを突然変異させる「ゲノム編集」なども品種改良にあたります。私が取り組むC4植物の特性をC3植物に組み入れようとする研究は、ゲノム編集の一つといえます。
ここで、みなさんにお聞きしたいのが、食品の「遺伝子組み換え」「ゲノム編集」という言葉への抵抗感。おそらく、食品のパッケージに表示されていたら避けたいと思う方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
実際は、これらの技術によって、厳しい自然環境でも生育できる作物が誕生しています。また、開発された品種は厚生労働省が安全性審査を行い、問題がないと判断された作物だけが流通できることになっています。イメージだけで判断せず、一歩引いたフラットな状態で情報を収集し、正しい知識によってその本質をつかんだ上で選択することが大切だと思います。
情報を得るうえで注意していただきたいのが、その出どころです。これは私が専門とするゲノム編集に限らず、どのようなことにもいえるかもしれません。現在は新聞、雑誌だけでなく、インターネット、SNSなど、身の回りに情報があふれています。だからこそ研究機関など情報の原点までたどり、何を根拠に発信しているかを確認することは、真偽の判断の助けになるはずです。
食糧問題は世界中の人々に関係するものです。そして、ゲノム編集や遺伝子組換えを含む品種改良の研究は、誰もがごはんを食べられる世界をつくるうえで、非常に重要な役割を担います。私たち研究者はときに手を取り合って、研究を進めています。世界のこれからを考えるためにも、ぜひご自身でも調べてみていただけるとうれしく思います。
Profile
宗景 ゆり(MUNEKAGE Yuri)
関西学院大学生命環境学部生物科学科 教授。奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科博士課程修了、博士(バイオサイエンス)。研究分野は光合成、環境適応、ストレス耐性、分子育種。
運営元:関西学院 広報部