協働の時代だからこそ考えたい。「結果のみを最優先する従業員」が組織に与える影響とは?

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協働の時代だからこそ考えたい。「結果のみを最優先する従業員」が組織に与える影響とは?

コスパ(コストパフォーマンス)、タイパ(タイムパフォーマンス)といった言葉が飛び交い、「いかに効率的に結果を出すか」が求められがちな昨今。ビジネスシーンにおいても「結果のみを最優先する従業員」が存在します。では、結果を最優先することは、個人や組織にどのようなメリット、そしてデメリットをもたらすのでしょうか。経営学史と組織行動論を専門とする貴島耕平先生に、「結果のみを最優先する従業員」の行動傾向、組織に与える影響などについて伺いました。

Profile

貴島 耕平(KIJIMA Kohei)

関西学院大学商学部准教授。博士(経営学)。研究分野は経営学史、組織行動論。大阪商業大学専任講師を経て、2019年関西学院大学に着任、2024年より現職。著書に『経営組織入門』(文眞堂、共著)がある。

この記事の要約

  • 結果を最優先する思考様式(BLM)が高まると、発言行動や援助要請行動が増加する。
  • BLMが高まると、他者に対する援助行動や知識共有行動、学習行動が減少する。
  • BLMには人事評価制度における成果主義が関連している。
  • 日本では成果主義がうまく機能せず、新たな人事制度の仕組みも生まれている。

結果優先的な思考がもたらすのは、ネガティブな影響だけではない

企業にとって、利益の確保は、組織を継続させるため、そして事業を発展させるために欠かせないものです。そのため、多くの企業では数値目標が設定され、それを達成することが求められています。さらに、通常は、仕事で成果を上げた人ほど出世するため、会社勤めの方なら、同僚の中に一定数、 “結果のみを最優先する”という思考の人がいるのは当たり前のことと受け止めているかもしれません。

では、企業において「結果のみを最優先する従業員」は、どのような行動を起こすのでしょう。貴島先生は、「結果にこだわるという考え方は、良い成果を生む場合も大いにあるでしょうし、それ自体が悪いとは私は思っていません。ただ、近年の実業界では社内外の協働が求められる傾向があるため、『個人の結果のみを優先する行動、振る舞いは、組織全体のパフォーマンスを阻害してしまうのでは?』と思いましたし、それがこの研究をはじめるきっかけでした」と話します。

ちなみに、結果を最優先する思考様式は、英語で「ボトムライン・メンタリティ(Bottom-Line Mentality/BLM)」と呼ばれます。「ボトムライン」は、企業の経営成績を示す決算書、損益計算書の一番下に表記される項目で、当期純利益のこと。ボトムライン・メンタリティは、企業の利益や損益というボトムラインを最優先に考え、その他の要素を軽視する一元的な思考と定義されています。

これまで国内外で行われてきたBLMに関する研究には、「上司のBLMが部下の非生産的行動を招く可能性」や「BLMが組織不祥事や不正行為といった非倫理的行動につながる可能性」が指摘されており、協働を求める企業組織にとってはネガティブな側面が浮かび上がってきていたそう。貴島先生は、これらの先行研究の成果を踏まえ、さらに細かな分析を行おうと、自身の職務や外部環境に積極的に働きかける「プロアクティブ行動」に着目。働きかけの意識が自分に向く「自己志向的プロアクティブ行動」と、自分以外にも向く「他者志向的プロアクティブ行動」がどのように行われるのかを調査しました。

調査は、企業勤務の従業員827名を対象にオンラインアンケート形式で実施。年齢や性別、勤続年数といった基本的な質問に加え、「私はどんなことでも試してみたい」「私は職場の同僚と仕事に関するノウハウを共有したい」「私は結果を達成することにだけ関心がある」といった研究に即した質問を用意し、それぞれ5段階の選択肢から回答をしてもらうものでした。

「調査結果からわかったのは、企業規模や業種を問わず、結果を最優先する思考、すなわち、BLMが強まると、人は自己志向的プロアクティブ行動がさかんになるということ。たとえば、結果を出すにはどうすれば良いかを考えるため、現状に対する問題意識が高まり、発言や提言が増える傾向があります。また、結果を早く出したいがゆえに、『助けてください』『教えてください』といった援助を要請する行動も増えることがわかりました」

こういった行動は、仕事に積極的に取り組む姿勢が見え、とてもポジティブな印象を受けます。しかし一方で、周囲に働きかける他者志向的プロアクティブ行動は減る傾向が見られました。

「自分の援助要請行動は増えるのに、他者への援助行動は減少する。つまり、自分は助けてもらいたいけれど、他の人を助ける行動は減ってしまうんです。また、同僚を競争相手として認識するために、知識共有が少なくなり、ひどい場合は知識を隠ぺいする行動を取ってしまうケースもあります」

他者を助けない、知識を共有せず隠すといった行動は、組織やチームの全体パフォーマンスを下げることにつながる、BLMのネガティブな側面。そしてもう一つ、「BLMが高まることで、学習行動は減る傾向にある」ということも調査からわかりました。

「『結果を最優先する人』を想像すると、結果を出すためなら積極的に学習すると考える人もいると思うのですが、実はそんなことはなかったのです。というのも、学習してから結果を出すという一連のプロセスには時間がかかるからです。結果を優先すると短期的な思考になりがちです。その思考こそが学習行動が減る原因だと考察しています」

この調査を経て、貴島先生は、「先行研究ではBLMによるネガティブな側面が取り上げられ、注目されてきました。とはいえ、今回の調査を通して、冒頭で述べたようなパフォーマンスを高めるポジティブな働きもあることがわかったことは、私はとても大事なことだと思います」と語ります。

人の振る舞いは評価の仕組みによって左右される

結果を最優先する思考、すなわちBLMは、個人にとっても組織にとっても良し悪しがあるとわかりましたが、そもそもなぜBLMのような思考が生まれるのでしょう。

1990年代後半から日本でも多くの企業が成果主義の要素を評価制度に取り入れるようになりました。こうした社会の動きによって、評価を得るために結果を優先する思考が広がっていったのでしょうか。

「成果主義の影響はおそらくあると思います。人間は組織で生き残るために、評価の仕組みに適応した振る舞いをするでしょうから。アカデミアの世界でも一時期、『サラミ論文』が問題視されたことがありました。論文や発表の数が求められたため、本来は一つの論文として報告できる内容を、サラミをスライスするように細かく分割することで論文数を増やしたんです。この問題の根本には、評価の基準が論文の数だったことにあります」

人が評価の仕組みに合わせた振る舞いをするのなら、評価軸の内容を変えていこうという動きが近年、増えています。企業が自社の存在意義を明確にし、社会の中でどのような役割を果たし貢献するのかという「パーパス(Purpose)」を掲げて経営することを「パーパス経営」といいますが、この経営スタイルを取り入れる企業では、パーパスに軸足を置いた人事評価を行っています。これもそういった動きの一つです。

「たとえばIT企業のサイバーエージェントは『素直でいい人』や『人望』を採用や評価の基準としています。人事評価制度においても『いい人』を形づくる要素である、仕事に対して当事者意識を持ち主体的に取り組む『オーナーシップ』や、チームの成果を最大化させるために自主的・自律的に働きかける『フォロワーシップ』を評価軸に設定しています。結果、『いい人』じゃないと評価されないので、みんなが『いい人』の振る舞いをするようになっていく。これは一つの有効なアプローチではないでしょうか」

確かに、企業が協働を求めるのであれば、組織やチームのために考えて動くマインドや行動を評価するような仕組みが必要になってくるでしょう。それをベースに評価すれば、BLMによる非倫理的な行動やチームに対する非協力的な行動はおのずと減っていくのかもしれません。

とはいえ、組織として評価の仕組みを変えるのは簡単なことではありません。現在の仕組みの中でBLMのような思考様式を持つ人と一緒に仕事をする場合、コミュニケーションを円滑に取り、チーム全体の生産性を高めていくために、心がけるべきことはあるのでしょうか。

「結果を優先すること自体が悪いわけではないので、頭ごなしに否定しないほうが良いでしょう。もし、周りを助けない、知識を共有しないといった振る舞いがあれば、『そういうやり方はこの会社ではそぐわない。それでは評価されないよ』と上司が働きかけることが大切ではないかと思います。短期間で結果を出すことが求められるような仕事であれば、BLMによる振る舞いが成果につながるケースもあると思うので、短期的に取り組む仕事と長期的に取り組む仕事でうまく切り替えられると良いですね」

変わりつつある日本企業の雇用と評価

最後に、BLMの発生にも影響を与えた人事制度における成果主義について、貴島先生が専門とする経営学史の視点からも伺いました。

「日本の成果主義は、ジョブ型(ポスト型)と呼ばれるアメリカの人事評価制度に由来します。アメリカのジョブ型ではポストの数が決まっていて、ポストに仕事内容が紐づいており、その仕事ができなければ解雇されるし、時にはポスト自体がなくなることもあります。アメリカの雇用契約は随意雇用(Employment At-Will)、つまりいつでも雇用を終了することができるので、結果を出せなければ解雇されるし、そのときに実績がなければ転職も難しくなるのです」

1990年代後半から成果主義的な考え方が日本にも入ってきたものの、勤続年数に応じて給料や役職が与えられた「年功序列」のシステムが長く続いた日本において、その導入はうまくいかなかったケースが多いと貴島先生は指摘します。

「成果主義を取り入れようとしても、結局は名ばかりの制度になってしまった企業が多いのではないでしょうか。何によって成果を測るのかが曖昧になってしまい、定量化がうまくできなかったからではないかと思います」

さらに「そもそも日本企業の新卒一括採用と、ジョブ型のアメリカの人事制度は、まったくかみ合わない」と貴島先生は指摘します。

「ジョブ型雇用では本来、新卒採用はできないんです。『このポストの仕事内容に見合う実績を持った大学生』なんて基本的にいないわけですから。そのため、最近は折衷案として、従来通り職務や勤務地などを限定せずに新卒一括採用をして、その後、ポストが上がるとジョブ型雇用になるという仕組みにしている企業もあります」

また、貴島先生によると、日本が1990年代に成果主義を導入したのとは反対に、その10年ほど前の1980年代にはアメリカの研究者が日本的経営に注目してそのエッセンスを取り入れようとするなど、アメリカでも行きつ戻りつの試行錯誤が行われてきたと言います。

年功序列や長期雇用といった日本的な経営から成果主義に移行したことで、これまで想定したことがない、結果を最優先する思考、BLMが指摘されるようになりました。しかし個人ではなく協働によって成果を出すことが求められることが多い今、BLMのポジティブな面を活かしつつ、日本的な経営の良い部分に目を向けることも大切なのかもしれません。

取材対象:貴島 耕平(関西学院大学 商学部准教授)
ライター:藤原 朋
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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