WELL-BEING

原子や分子に目を向け、ミクロに「なぜ?」を考える|学問への誘い #10

加藤 昌子生命環境学部 教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

日々の暮らしにおいて、原子や分子を気にする方は多くないと思いますが、世の中のあらゆるものは、原子や分子の集合体でできています。

私の専門分野は金属錯体(※)化学ですが、金属錯体は、金属イオンと無機物、有機分子などで構成されています。私たちの体内にもさまざまな金属錯体が存在します。たとえば酸素を運ぶ血液。なぜ血液が体内を巡って酸素を運ぶことができるのかというと、われわれが赤色の鉄錯体を持っているからです。ほかにも、われわれの健康維持にはミネラルが必要だといいますよね。亜鉛やコバルトなど金属イオンを含めて無機物を総称してミネラルと呼ばれているわけですが、体内でミネラルがどのような役割を果たしているのかというと、たんぱく質やその他のいろいろな成分とくっついて、錯体となって仕事をするんです。

※金属原子または金属イオンの周囲に、一つまたは複数の原子や分子、イオンが方向性を持って立体的に結合した化合物のこと。

水は、酸素と水素が結合した分子ですが、実験で使うような純粋な水は全然おいしくなく、飲むには不適切です。ケミカルな世界の純粋な水は、おいしいという感覚とは違う次元の世界にある。カリウムイオンやカルシウムイオン、マグネシウムイオンがわずかに含まれているからおいしいんだ、といったことに思いをはせてみると、ちょっと楽しくないですか。「おいしい水」のおいしさの違いは何か、というところまで踏み込んで考えると興味が湧いてきませんか。

葉っぱの緑色はマグネシウム錯体で、そのおかげで太陽の光を吸収できます。原子、分子の視点を持つと、あまり関係がないと思っていた分野の見方が変わり、世界がおもしろく見えるかもしれません。

Profile

加藤 昌子(KATO Masako)

関西学院大学生命環境学部教授、北海道大学名誉教授。博士(理学)。研究分野は「金属錯体の発光特性と構造化学特性の研究および光機能性開発」。岡崎国立共同研究機構分子科学研究所技官、奈良女子大学大学院人間文化研究科助教授、北海道大学大学院理学研究院教授、北海道大学Distinguished Professorなどを経て、2021年より現職。光化学協会Lectureship Award(2019年)、科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(2020年)、錯体化学会賞(2020年)などを受賞。新学術領域研究「ソフトクリスタル」領域代表者。科学技術振興機構CREST領域アドバイザー、SICORP「水素技術」研究主幹、ナノテク材料/グリーンイノベーション分野共通評価委員、米国化学会Inorganic Chemistry, Advisory Board Member、英国化学会Dalton Transactions, Chemical Society Reviews, Advisory Board Member、光化学協会会長など幅広い活動を展開。

運営元:関西学院 広報部

この記事が気になったら、
感想と共にシェアください

  • X(Twitter)
  • Facebook
  • LINE
  • URLをコピー