組織の成長に欠かせない、ミドルマネージャーにこれから求められること

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組織の成長に欠かせない、ミドルマネージャーにこれから求められること

企業をはじめとする組織には、さまざまな立場、役割があります。中でも経営戦略に沿って運営するミドルマネージャー、いわゆる中間管理職は、組織の成長に欠かせないといわれています。今回は、日本においてミドルマネージャーが置かれている状況や役割、課題について、経営戦略論を専門領域とし、特にミドルマネジメント層に注目して研究する森谷周一先生に話を伺いました。

Profile

森谷 周一(MORITANI Shuichi)

関西学院大学商学部 准教授。博士(商学)。2017年に関西学院大学商学部助教に着任し、2021年より現職。2023年9月から2025年9月まで、イギリスのマンチェスター大学のビジネススクールに留学。研究分野はミドルマネジメント、経営戦略論、職能別戦略など。『人間と経営-私たちはどこへ向かうのか』(文眞堂、共著)では、「資源としての人間―人的資源管理論の発展―」について執筆。

この記事の要約

  • 日本のミドルマネージャーは管理業務に加えて現場業務も担うことが多いのが特徴。
  • 時代とともにミドルマネージャーの役割は多方面に広がり業務過多に。
  • 企業は従業員に対して支配的な立場から寄り添うマネジメントに。
  • 人的資源の活用にミドルマネージャーが吸い上げる現場の声は不可欠。

人の雇用や育成を巡って、日本企業は大きな転換期に

さまざまな組織でよく見聞きする「マネージャー」という肩書は、どのように定義され、そして日本企業ではどのような存在なのでしょうか。森谷先生によると、マネージャーは「組織の中の職位を表す言葉で、一般的には一定以上の部下を持ち、人や資金、業務の全体的な管理・運営を担う立場」で、ミドルマネージャーは、いわゆる中間管理職。一般的な組織では部長や課長に該当すると説明します。

「マネージャーは上位になるほど大局的・長期的な視点からの戦略策定などが求められますが、ミドルマネージャーは経営層と現場の社員を結び、日々のオペレーションをいかにうまく動かすかという管理者の役割が求められます。しかし日本企業の場合、特に課長級のミドルマネージャーは管理だけでなく、実際に現場での業務を担うプレイングマネージャーであることも多い。これが日本企業のひとつの特徴といえます」

1980年代後半から1990年代にかけて、日本の企業活動の勢いを支えた要因に、ミドルマネージャーの働きがあると森谷先生は話します。「なぜ革新的な技術や製品をつくれるのか、なぜ好調なのかと、日本企業は世界的に脚光を浴びました。その1つの理由に、ミドルマネージャーを中心とする現場での学習や創造活動が卓越していたことがあります」

長期雇用が前提だった当時は時間的・精神的に余裕があり、部下たちは新しい知識を得るための学習をすることにも積極的で、ミドルマネージャーはそれらの取り組みをサポートし、高めることができました。ところが、技術革新によって業務が効率化されていく中、社会を取り巻く環境も変わり、現在のミドルマネージャーは通常業務だけでなく、部下のメンタルヘルスへの配慮、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、その多様性を活かしてすべての人が活躍できる社会の実現をめざす取り組み)など、仕事・役割が過多になっているといいます。「責任や仕事の量は増大してもリターンは少なく、部下から見るとミドルマネージャーは魅力がないように見えます。現に、ミドルマネージャー、管理職になることは“罰ゲーム”と言われるほどになりました」

このように、日本のミドルマネージャーは、時代とともにその姿が変化してきましたが、海外ではどうなのでしょう。森谷先生によると、欧米の企業は雇用契約の際にジョブディスクリプション(職務記述書)を提示しているので、比較的明確に個別の業務が分けられているのだそう。ミドルマネージャーは提示された業務のみを行うため、セルフマネジメントがしやすいことが特徴だといいます。

「ただ、デメリットもあります。業務を分けると業務間に隙間ができやすく、誰が担当かわからない業務が生まれてしまいます。一方で、日本のように業務担当が明確でない場合、立場や部署が異なる人が共に考える機会が増え、その隙間が埋められます。他者との相互理解でチームワークが生まれ、それは組織能力に転化されるので、業務担当にあいまい性があることにはメリットもあるのです」

政府が推進する“個”を重視した経営スタイル

こうしてミドルマネージャーの役割が変わる中、「人の雇用や育成を巡って、日本企業は非常に大きな転換期を迎えています」と森谷先生は言います。というのも近年、企業経営における“人”という資本の重要性が高まり、経済産業省が人材の価値を最大限に引き出し企業価値の向上につなげる「人的資本経営」を掲げ、企業の従業員に対する考え方やマネジメントの方法などを根本的に見直すことを後押ししているからです。

「これまで日本では、企業主導で人材育成などを行ってきました。『個々の従業員にどのような成長機会を与えるか、部署異動させるかは、企業が決めて従業員はしたがう』という、ある意味、支配的な方法でもありました。現在、政府が推進する人的資本経営は、『働く個人の自立や個人の意思をできるだけ尊重し、個々の立場や事情にも寄り添う形でマネジメントを展開し、人材育成をしていく取り組みが求められています。そのため、近年は大企業を中心に少しずつ人事制度の改革などが行われています」

日本人は、組織の中ではあまり“個”を出さない傾向がありますが、個人の自立や意思の優先に焦点を当てた人的資本経営の人事制度は、日本企業になじむのか、疑問が頭をよぎります。「個人の意思より、制度を優先するのが一般的な日本企業の特徴で、いかに制度を守りながら組織を回すかを重視します。一方、欧米の企業を見ると、その時々の事情によっては制度より個人の裁量が優先されることがあると感じます」

ミドルマネージャーと人事部門の関係構築が今後のカギに

人的資本経営で“個”が重視されるようになると、一人ひとりの事情を把握できるのは現場の上司、つまりミドルマネージャーになります。今後ますます、その役割が重視されることは間違いないものの、そこで想起されるのがミドルマネージャーは“罰ゲーム”という言葉です。ミドルマネージャー自身の“個”も尊重しながら、より良い組織運営をするには何が必要なのでしょうか。

森谷先生が注目したのは、人事部門と現場のミドルマネージャーの関係です。従業員の育成や働きやすい環境づくりなど、長期的な課題への取り組みが求められる人事部門と、日々の業務で人手も余裕も足りない現場のミドルマネージャー。これからの職場環境を考えるとき、人事部門が現場に耳を傾けることが重要になってくると森谷先生は考えます。

「企業でのインタビュー調査などを通して、人事部門と現場のミドルマネージャーの対話促進に必要な要素が見えてきました。それは関西弁的にいうと『ええ格好せんと、一緒に考えたらええやん』ということ。現在、多くの企業の人事制度は複雑で、人事部門の担当者も本当にそれでよいのか疑問を持ちながら遂行しているところがあります。一方で現場は、日々の業務で忙しい。そこで、お互いにうまくいかない現実を、まずは遠慮なしに共有し、共有された現実をもとに少しずつ対話していく。人事部門と現場が連動し、うまく機能している企業の事例をリサーチすると、現場に近いミドルマネージャーの声をうまく聞き出していると感じます」

これは、日本における人事部門の特異性が関係しています。というのも欧米では、企業の人事課題を解決する「HR(Human Resource)プロフェッショナル」の存在が広く認知されており、企業は人事の専門家を組織外部の労働市場から採用することが多いのです。

日本でもこういった人事のプロを配置するケースはありますが、それは一部の大手企業のみ。「日本の場合、2万人規模の企業でも、人事部での経験が3年目というような経験が浅い人材が、人事部門のナンバー2ということもあります。つまり、人事のエキスパートが少ないのです。だからこそ、人事が現場に対して『人事課題に対する唯一無二の回答を持っているわけではない』とあえてさらけだすことで、ミドルマネージャーら現場からの協力を得られるのではないでしょうか」

日本企業の組織や管理職のあり方については、海外からもたらされる新しい考え方や方法もしばしば話題になりますが、文化や歴史、伝統が違う海外企業の試みをそのまま日本企業に適用することに、森谷先生は待ったをかけます。

「人事制度や施策は多岐に渡り、それらは連環させる必要があるため、何か1つの制度を新たに導入すると、関連する制度についても変更や修正を検討する必要があります。でも、それはとても難しいものです。日本企業や自社が持つ良さを人事制度の軸に据えながら、海外のよいところをどのように取り入れるのかを試行錯誤し、マイルドに、ハイブリッドを追求していくことを念頭に置くことが大切だと考えています」

森谷先生は「日本の管理職の特殊さ」に関心があり、日本企業ならではの人事部門と現場の関係に目を向けて研究を進めてきましたが、今後は従業員間や組織の中の分断にも着目したいと語ります。

「政府が推進する人的資本経営によって、個人の希望を尊重すると、たとえばキャリア形成をしたいという人に対しては、採用時から幹部候補ということも考えられます。このように、それぞれの希望に対応したとしても、採用の違いをネガティブに捉えたり、不公平に感じたり、従業員の間に分断を生む可能性も考えられます。個人の希望に寄り添おうとするほど、この場合、採用や配置などのカテゴリーが細分化されてしまい、それらが過度に進むと、組織の分断化が進むのではないか。そのような問題意識を持って、組織や従業員の間に何があるかを解明できればと思います」

取材対象:森谷 周一(関西学院大学商学部 准教授)
ライター:ほんま あき
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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