正解のない競争社会で「人に熱中すること」が人を成長させる|人生を豊かにした出会い #1
清水 裕士社会学部 教授
私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?
私が研究者として大きな影響を受けたのは、大学時代に出会った5歳年上の先輩です。当時は私が学部生、先輩は大学院生でした。カリスマ性があり研究者としてかっこいい先輩に憧れ、先輩から「これを読め」と言われた本は全部読むほどでした。
なかでも大きかったのは、先輩が統計を得意とされていたことです。私自身もともと数学が好きだったのですが、計算ミスが多かったので成績は振るわず、文系の心理学に進みました。そんな私に先輩は「自分が一番になれるものを持て」と背中を押してくれたんです。それから私は、数学や統計学を勉強して心理学の研究に取り入れるようになりました。それが今では私の大きな強みになっています。今も一緒に研究させていただいているその先輩のおかげで、今の私があります。
研究の世界もビジネスと同じく、競争社会です。常に勉強をつづけて自分をアップデートしなければなりませんが、受験とは違ってこれさえやっていればいいという正解はありません。誰もがスター研究者に憧れるものの、どうすればそうなれるのかという道筋がなかなか見えないのです。そんななかで、自分のロールモデルとなる人と出会えるかどうかはとても重要だと思います。
誰かに熱中して盲目的に追従することで急激に成長するという例は、研究者の間でもよく見かけます。この方向に進めばいいんだとわかると、途端に抵抗がなくなって迷いなく進んでいける。自動車レースで前を走る車のすぐ後ろにつけば空気抵抗がなくなるのと同じかもしれません。
ただ、それは時として危うさもはらんでいます。盲目的になれる人は素直な人ですから、振り回されてしまったり、相手と自分との落差に悩んでしまうこともあるでしょう。ときどきクールダウンして、その人自身をめざすのではなく、あくまで自分を成長させることが目的なのだと再確認することも大切です。
大学の先輩に限らず、これまで私が影響を受けてきた人は、人のポジティブな面を見つけて褒めることが上手な人が多かった気がします。自分をよく見てくれている人からなら、多少難しい課題を振られても「自分を信頼してくれているんだ」と感じて、なんとかそれに応えたくなりますよね。そんなふうにこれまで出会ったいろいろな人のおかげで今があるので、私も誰かに「こんな人になってみたい」と思ってもらえるような、魅力的な研究者になれたらいいなと思います。
Profile
清水 裕士(SHIMIZU Hiroshi)
関西学院大学 社会学部 教授。専門は社会心理学・グループダイナミックス。関西学院大学社会学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科 博士後期課程修了。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員、University of Melbourne 客員研究員、広島大学大学院総合科学研究科 助教を経て、2015年に関西学院大学 准教授に着任。2018年より現職。恋愛関係や友人関係などの親密な人間関係について、その成立条件や社会規範との関係を研究している。
運営元:関西学院 広報部