思いや気づきを大切にしながら、解決策を共に考える「アクションリサーチ」|学問への誘い #12
関 嘉寛社会学部 教授
世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。
私は研究活動にアクションリサーチという手法を取り入れています。アクションリサーチとは、現場の人たちと問題意識を共有し、より良い状態をめざすための解決策を一緒に考え、実践と修正・改善を繰り返していく方法です。
アクションリサーチの目的は、現場におけるテーマを実現させることです。そのため、実現を妨げる問題は何か、まずは細かく分解していきます。たとえば「高齢者の豊かな暮らし」というテーマであれば、医療・福祉制度の不備や、家族や地域とのつながりの希薄さ、生きがいの問題などが考えられます。
分解するためのアプローチとしては、一つは文献にあたって論点を整理すること。もう一つは、実際に集団に加わって共に行動することで情報収集する「参与観察」や、インタビュー、アンケートなどで、フィールドの現状を調べることです。
文献と現状を照らし合わせて解決策を考え、実践に移していく中で、私が重視しているのは「こんなことをやってみたい」という自分たちの思いを持って取り組むことです。もちろん、実践するために周囲にその思いを論理的に説明する必要があります。「やってみたい」という思いに、客観的データを組み込むことで、論理性を持たせていきます。
このように、帰納法や演繹法(※)とは異なり、観察可能な事象から原因をさかのぼって推測する論理は、アブダクション(逆行推論)と呼ばれ、近年はビジネスの世界でも注目されています。自分の思いを論理的に説明していく力を身につけると、どのような場面でも活用することが可能です。私のゼミの卒業生は、「ラッキーヒットがラッキーヒットじゃなくなる」と表現していました。
※帰納法は観察されるいくつかの事象の共通点に着目し、法則やパターンを導き出すが、演繹法は法則やパターンと観察事象を関連付け、そこから結論を導き出す。
私は、自分たちの思いや気づき、発想を大切にすることで、ものの見方の新しい可能性を提示できるのではないかと考えています。さらに、それを受け取った人の気づきにつながり、気づきが連鎖していくと、多元的な現実をより広く捉えられるようになり、さまざまなアイデアやアクションが生まれていくのではないでしょうか。
また、テーマを実現するためだけに自己本位的に人との関係性を築くのではなく、たとえば一緒にごはんを食べたり雑談したりするような、何気ない時間も大切です。時間をかけて共に過ごしていくことが相手を理解し、物事を動かす一つの方法になると考えています。私は被災地に学生と赴いてボランティア活動の研究を行っています。ある卒業生は、アクションリサーチで関わった被災地の方たちが、就職先のお店までわざわざ遊びに来てくれたと話していました。そうやって「やってみたい」ことを共に動かした先で、つながりが継続していくのは、とても豊かなことだと感じています。
Profile
関 嘉寛(SEKI Yoshihiro)
関西学院大学社会学部教授。博士(人間科学)。大阪大学大学院助教などを経て、2009年に関西学院大学に着任、2011年から現職。専門はまちづくり、ボランティア、災害復興、社会学。新潟県中越地震で被災した集落における住民参加型復興のあり方の参与観察(共に行動することで情報収集する方法)、東日本大震災の被災地でのボランティアや支援のあり方の調査などを行っている。
運営元:関西学院 広報部