コミュニケーションのメカニズムを知ることが問題解決の一歩に|学問への誘い #13
森本 郁代法学部 教授
世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。
クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんは、自著やインタビューで「世の中の問題のほとんどはコミュニケーションの不具合から生じている」ということをおっしゃっています。私の専門は会話分析ですが、実際にコミュニケーションを分析していて、本当にその通りだと思います。社会は人と人とのコミュニケーションで成り立っています。そのコミュニケーションがうまくいかないことによって、さまざまな問題が起こっているのです。
コミュニケーションの不具合やトラブルがあると、「私が悪い」とか「相手が悪い」という思考にどうしてもなりがちです。私もそう考えてしまうことが多々ありますが、実際は誰が悪いわけでもなく、コミュニケーションのメカニズムをひも解くと原因が見えてくる場合があります。
学問的にコミュニケーションにアプローチすると、たくさんの気づきが得られます。コミュニケーションがうまくいかずに辛くなってしまったとき、分析者の視点で捉えなおしてみると、気持ちが少し楽になったり、どうしたらいいのか解決策が見つかったりします。
コミュニケーションについて学ぶことに関心のある人は、最初はノウハウ本でも良いので、まずは一冊手に取って読んでみてください。そして、ノウハウを自分で実践してみてください。ただし、やってみて終わりではなく、それによって相手や自分の振る舞いがどう変わったのかを観察してみましょう。コミュニケーションの研究は観察から始まります。
観察し、振り返ってみて、なぜうまくいったのか、もしくはいかなかったのかを自分で考えてみることが大切です。たとえば話し合いを振り返るときは、「みんなが対等な立場だったか」「多様な意見が出ていたか」「議論の深まりがあったか」という項目であらためてチェックしてみると良いでしょう。これらの項目を日常の中で意識しておけば、次につながるような振り返りができるのではないかと思います。
私は、より良いコミュニケーションがこの社会を良くすることにつながると信じています。多くの人がコミュニケーションにもっと興味を持ってもらえるとうれしいです。
Profile
森本 郁代(MORIMOTO Ikuyo)
関西学院大学法学部 教授。博士(言語文化学)。2006年から現職、2013年4月~2014年3月カリフォルニア大学サンタバーバラ校客員研究員、2023年9月~2024年8月スイスのバーゼル大学客員研究員。専門は会話分析、日本語教育学で、人と人との日常的なコミュニケーションの分析を通して、人間のコミュニケーションや学習のメカニズムの認知的・社会的側面の両方からの解明をめざす。著書に『裁判員裁判の評議を解剖する―ブラックボックスを開く会話分析』(共著、日本評論社)、『これからの話し合いを考えよう』(共著、ひつじ書房)など。
運営元:関西学院 広報部