マイノリティのつくる音楽が、僕の目を社会問題へと向けてくれた|人生を豊かにした出会い #2
白波瀬 達也人間福祉学部 教授
私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?
僕は1979年生まれなんですけど、ちょうど多感な時期にヒップホップが流行った世代なんです。どっぷり好きになって聴き込んでいくにつれ、同時代のアーティストたちがリスペクトしていた、昔のアーティストへの興味も高まってきて。そこから、欧米に住む黒人やアジア系移民など、エスニックマイノリティの人たちがつくる音楽を好きになっていきました。
最初は本当にフィーリングです。胸に迫るものがあり、歌詞を和訳するなど詳しく調べていくうちに、その音楽の背景に、差別や不平等、格差といった問題があることに気づきました。たとえばアメリカの黒人シンガーソングライター、カーティス・メイフィールドが1975年にリリースしたアルバム『There’s No Place Like America Today』。そのジャケットには、幸せそうな白人の家族がいる一方で、配給に並んでいる黒人の貧困層が描かれています。これがアメリカの実情だと、わかりやすく風刺している。そういった数々の作品に惹かれ、聴きあさると同時に、その背景まで深掘りしていって。マイノリティのつくりだす文化や表現への興味から社会問題に関心がわき、結果的に貧困問題の研究へと進んでいったんです。
思い返せば、趣味で聴いているときから、無意識に研究的な行動をとっていました。自分で音楽をつくるんじゃなく、音楽の背景にあるものを調べ、自分なりに咀嚼して、紐解いていくことが面白かったし、自分には向いていました。知れば知るほど、社会のメカニズムが見えてくる。一見バラバラに思えるようなもの同士に、実はつながりのあることがわかると、さらに探究心がくすぐられました。
僕の好きなソウルミュージックって、ラブソングが多いんですよね。甘さのなかに渋みのあるテイストが好きで。ただ、スイートなわけじゃなく、その奥に切実さがある。そういう音楽にふれたときはグッときてしまいます。つらい状況をただつらいと歌うんじゃなく、つらい状況のなかで楽しみを見つけようとしていたり、より良い生活をめざそうとしていたり……。バックグラウンドを深く理解することで、よりいっそう心に響くものがあるのです。
心を揺さぶるだけじゃなく、知的好奇心までくすぐってくれる。音楽が僕に与えてくれたものは、とてつもなく大きいです。好きなことと向き合えたら幸せですし、深掘りするのも楽しいし、ものの見方も豊かになる。好きなものから社会が見えてくることって、いっぱいあると思いますよ。
Profile
白波瀬 達也(SHIRAHASE Tatsuya)
関西学院大学 人間福祉学部 教授。博士(社会学)、専門社会調査士、社会福祉士。大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員などを経て現職。貧困などの不利が集中する都市・地域の課題を、フィールドワークの手法に基づき研究。単に実態を把握するだけでなく、課題解決のための政策やソーシャルアクションについても研究している。大阪市西成区でソーシャルワーカーとしても活動し、2012年から市が中心となり進める「西成特区構想」プロジェクトにも参画。著書に『宗教の社会貢献を問い直す』(ナカニシヤ出版)、『貧困と地域』(中公新書)など。
運営元:関西学院 広報部