温故知新の精神で、経営学の歴史を現代に応用する|学問への誘い #16
貴島 耕平商学部 准教授
世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。
私が専門としている経営学史は、過去の経営学者たちが何を考え、述べてきたのかをひも解き、現代の社会や企業が抱える課題に対して過去の理論から提案できることはないかを考える、「温故知新」の学問です。
たとえば、1911年に出版されたアメリカのフレデリック・テイラーの『科学的管理法』は、当時のアメリカにおいて国内の熟練労働者が減少していた一方、増えつつあった移民たちの労働を管理する方法として提唱されたもの。労働者の作業を客観的な視点で整理し、生産性を向上させるための手法なのですが、この科学的管理法のエッセンスを、人口減少が進み、外国人の受け入れについての議論が活発化する日本でも応用できるのではないか。そのようにして時代を超えた共通点を探っていくのが、経営学史の考え方です。
テイラーは、雇用主が労働者に作業を任せっきりにするのではなく、双方がコミュニケーションを取り、もし非効率な作業があれば取り除くといった改善を行うべきだと提唱していました。管理者と現場の間でギャップが生まれてしまうのは、現代でもよくあることかもしれませんが、テイラーは100年以上前からこの課題について考えていたのです。
そもそも経営学とは、社会や企業が抱える実践的な課題を解決しようとするところからスタートした学問なので、経営学の歴史は、課題に対して研究者たちが努力してきた証といえます。関西学院大学の名誉教授で、戦前・戦後の経営学界のパイオニアの一人である故・池内信行先生は、「学史研究はこれまでの仕事の回顧であると同時に、これからの展望でもある」とおっしゃっていました。過去の研究者たちによる多様なアプローチを知り、さまざまな角度から世界を見ることができるのが、経営学史の魅力ではないかと思います。
経営学史に興味を持った人は、ぜひ古典を読んでみてください。おすすめは、前述したフレデリック・テイラーの『科学的管理法』と、チェスター・バーナードの『経営者の役割』、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。この3冊は絶版になっていないため、今でも書店で手に入れることができます。
経営学史のおもしろさを知るには、古典的名著に触れるのが一番。名著には名著たりうる理由があって、現代に通ずるヒントがたくさん書かれています。特に、テイラーとバーナードは実務家ですから、私のように研究の道だけを歩んできた人間よりも、企業で働いた経験のある方たちのほうが、より実感を持って理解できるのではないでしょうか。
Profile
貴島 耕平(KIJIMA Kohei)
関西学院大学商学部准教授。博士(経営学)。研究分野は経営学史、組織行動論。大阪商業大学専任講師を経て、2019年関西学院大学に着任、2024年より現職。著書に『経営組織入門』(文眞堂、共著)がある。
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