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知らない土地での会話が地域理解、さらには人間理解につながる|学問への誘い #17

石榑 督和建築学部 准教授

世の中には多くの学問分野があります。研究者はどこに魅力を感じてその分野を専門とし、研究するようになったのでしょうか。関西学院の研究者に聞いたところ、専門分野との出会いや、研究のおもしろさを語ってくれました。その言葉に耳を傾けると、新たな世界が広がるかもしれません。

私は日本および東アジアの都市空間や地域空間の歴史を建築から考える研究、そして近現代日本の建築史研究をしています。

建築には2つの側面があると私は考えます。1つ目は、建築家や都市計画家が強い意志を持って何かを描くことによって世界をつくってきたという側面。2つ目は、無名の人たちが集まり繰り返しつくることで生まれる生活的、たとえば民家や集落のような側面です。この2つの側面を捉えながら、未来を構想していく学問であるというところが、私にとっての魅力です。

私は後者に軸を置いた研究者なので、文化人類学者や民俗学者と共にフィールドワークを行いながら社会全般を見渡し、建築の専門性をもって一般の方が気づかないような特徴を見いだすことを主題に研究を行っています。わかりやすく言うと、「人間っていったい何だろう」と考えながら、建築物を追っていくところに、私の関心があります。

現在研究しているのは、第二次世界大戦後の復興期に日本全国の駅前などに、元は「闇市」として生まれ、その後「マーケット」という共同店舗が形成された過程を空間的に明らかにするとともに、闇市が整理される過程で市街地の中心的な商業空間となっていった「民衆駅」について研究しています。闇市の研究をするにあたり、私は必ず古くから駅前にある飲み屋街に足を運んでいます。1杯飲みながら「このお店はいつからですか?」などと店主の人生を聞く。正式なインタビューではなく、そのような場で人生史を聞くことは、豊かな人間理解にもつながっていると感じます。

研究で釧路に行ったときは、釧路駅裏の飲み屋さんで店主や常連客と仲良く話すうちに、「実は釧路駅の研究で来ていて」と告げたことから、店主が駅の関係者に連絡をしてくれて、昼間のフィールドワークにつながったということもありました。飲み屋やスナックは「夜の公共圏」と言われますが、都市的な場で、知らない人同士がいきなり話す可能性のある場が、建物や都市空間に用意されていることは重要だと考えています。

このような学問ジャンルに興味を持たれた人はぜひ、地方出張や旅の折に「知らない人と話す」ということに挑戦してみてください。その土地の歴史や地域性などを深く知るきっかけになるのではないでしょうか。

Profile

石榑 督和(ISHIGURE Masakazu)

関西学院大学建築学部准教授。建築学部ヴォーリズ研究センター研究員。博士(工学)。明治大学、東京理科大学などを経て、2021年より現職。専門は建築歴史・意匠。20世紀の日本および東アジアを対象にした都市史・建築史や、W.M.ヴォーリズが設計した建築物の研究を行う。『戦後東京と闇市 新宿・池袋・渋谷の形成過程と都市組織』(鹿島出版会)で2020年日本建築学会著作賞を、『津波のあいだ、生きられた村』(鹿島出版会、共著)は2021年日本建築学会著作賞を受賞。東京日本橋の高島屋史料館TOKYOでの「闇市と都市」展(2025年9月13日~2026年2月23日開催)を監修。

運営元:関西学院 広報部

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