
多様な観測データから浮かび上がる銀河の姿。銀河形成の歴史を解き明かす
宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』など、小説や漫画のタイトルに使われていると、どこかロマンや神秘、果てしない想像が広がる「銀河」という言葉。星々が集まって形成される銀河は、宇宙の歴史の中でどのように姿を変えてきたのでしょうか。最先端の大型望遠鏡で観測されるさまざまなデータを解析し、銀河の進化の研究に取り組む久保真理子先生にお話を伺いました。

Profile
久保 真理子(KUBO Mariko)
関西学院大学理学部 准教授。博士(理学)。東京大学宇宙線研究所特任研究員、国立天文台TMT推進室/ハワイ観測所プロジェクト研究員、愛媛大学宇宙進化研究センター特定研究員、東北大学理学研究科天文学専攻助教をへて、2025年より現職。すばる望遠鏡などの大型望遠鏡による観測データを用いて、銀河の形成や進化についての研究を進めている。
この記事の要約
- 銀河は星、塵、ガス、ダークマターなどで構成され、銀河がさらに集まり銀河団を形成している。
- 100~120億年前に銀河が急激に形成された時代を「銀河進化最盛期」と呼ぶ。
- 銀河進化最盛期には多様な銀河が混在しているため、その姿をとらえるにはさまざまな観測データが必要。
- 大型望遠鏡によるさまざまな観測データから、銀河を育むガスの大規模構造の可視化に成功した。
銀河が集まって銀河団をつくる宇宙の階層構造
ロマンや神秘をイメージさせる「銀河」ですが、科学的には何をもって「銀河」と呼ぶのでしょうか。「夜空に瞬く星のほとんどは、太陽と同じく自ら光を発して輝く恒星です。こうした星たちは宇宙でばらばらに存在しているのではなく、大きな集団を形成しています。それが銀河です。私たちの太陽系は『天の川銀河』と呼ばれる銀河に属しています」と久保先生は説明します。
天の川銀河は数千億個もの星の集まりで、中心部が少し膨らんだ円盤状の形をしています。円盤の直径は約10~20万光年で、私たちの太陽系があるのは中心から約2万7000光年離れたところ。夜空を横切る天の川の光の帯は、天の川銀河を内側から中心に向かって見た姿なのです。
宇宙にある銀河は、私たちのいる天の川銀河だけではありません。数えきれないほどの銀河が分布し、さらに数百個から数千個の銀河で構成された銀河団や、数個から十個程度の小規模な銀河が集まる銀河群を形成します。天の川銀河は隣のアンドロメダ銀河などとともに、「局所銀河群」と呼ばれる銀河群を形成しているそうです。
銀河を形づくっているのは、私たちの目に見える光り輝く星だけではありません。「星のほかにもガスや塵が漂っています。これらは肉眼では見えませんが、電磁波を観測することで存在がわかります。さらに、観測できていない未知の物質『ダークマター(暗黒物質)』と呼ばれるものが存在し、それが銀河の質量の大部分を占めていると考えられています」と久保先生。
ではなぜ、ダークマターという観測できない物質が存在するとわかるのでしょうか。その根拠の一つは、銀河の回転運動だと久保先生は説明します。銀河は回転運動をしており、その回転速度は観測から求めることができます。しかし、銀河を構成している星やガスなど“目に見える”物質の質量をすべて合計しても、観測された回転速度を説明できるだけの質量にはまったく足りないのです。このことから、不足している質量に相当する未知の物質、ダークマターが存在しているはずだと考えられるのです。
今から約100億年前に銀河が急激に成長した
宇宙の138億年に及ぶ歴史の中で、銀河はどのように形成されてきたのでしょうか。久保先生が研究のターゲットとしているのは、銀河が最も劇的に成長したとされる今から100億年から120億年前の「銀河進化最盛期(cosmic noon)」です。
「銀河の成長を測る一つの尺度は、星の質量がどのくらい増えたのかということです。宇宙の星形成率(星が生まれるスピード)密度は、宇宙初期から増加し、100億年から120億年前にピークを迎えました。この宇宙で最も星が生まれ、銀河が成長した時代を銀河進化最盛期と呼んでいます。銀河が急激に成長していたこの時期、1年あたり太陽数百個から数千個分の星が生まれるような活発な銀河も少なくありませんでした。現在はというと、天の川銀河でできる星の質量は1年あたり太陽数個分であることから、いかに劇的な時代であったことがわかるでしょう」
星が次々と誕生して銀河が成長した銀河進化最盛期は、宇宙の歴史においてどのような意味を持つのでしょうか。その一つとして久保先生は、銀河の形態進化を挙げます。
「現在の宇宙に分布する銀河は、渦巻銀河、楕円銀河といった多様な形態を持ちます。銀河の形態には、銀河団中心部は巨大楕円銀河が占めるといった、強い環境依存性があります。銀河団や大規模構造のような銀河が織りなす構造が大きく進化した時代でもあり、銀河の形態が環境とともにどう現在の姿に進化したかを解明するためにとても重要な時代です。私たちとの関わりを考えれば、私たちの体を構成する多様な元素は星が誕生と死を繰り返した中で生まれてきたものです。こうした遠方宇宙で繰り返された銀河形成の先に、私たちがいると言えるでしょう」
さまざまな観測データを組み合わせて銀河の姿を探る
さて、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、遠くの宇宙を観測することは、実は「昔の宇宙の姿を見ること」と同じなのです。たとえば、光が1年かけて進む距離を1光年と表しますが、10光年離れた星を観測する場合、今見えている姿は10年前にその星から発せられ10年かけて地球に届いた光となります。つまり、100億光年離れた宇宙にある銀河から届く光は、銀河進化最盛期の頃に発せられたもの。久保先生は、さまざまな観測データを組み合わせて、遥か遠くにある銀河進化最盛期の銀河の姿を解析し、銀河がどのように進化してきたのかを明らかにしようとしています。
「総合的に銀河の姿を知るためには、X線や可視光、赤外線といったさまざまな波長の電磁波を観測する『多波長観測』が必要になります。たとえば、可視光の観測で銀河に赤い色が認められたとします。一般的に古い年齢の星からは赤い光が発せられますが、では赤い色の銀河は古い銀河なのかというと、そうとも限りません。銀河の中に塵が豊富にある場合も赤く見えるので、可視光だけではどちらか判別がつかないのです。しかし、電波の観測も加えると、塵があるのかどうかがわかります」
電波で観測すると塵やガスなど比較的低温の成分が見えると久保先生は言います。塵は星のもととなるため、塵が豊富な銀河を探すと星形成の活発な銀河が見つかるのだそう。そのほか、活動銀河核と呼ばれる銀河の中心にある巨大ブラックホールの検出にはX線、星の組成を知るには赤外線というように、多様な銀河が混在する銀河進化最盛期の姿をとらえるには、さまざまな波長での観測が欠かせません。
こうしたさまざまな測定方法を駆使して、久保先生が所属していた研究チームが挙げた成果が、遠方宇宙における水素ガスの分布です。遠方宇宙の活発に成長する銀河をつなぐように星の元となる水素ガスが分布していることは、理論や数値シミュレーションで予測されていましたが、実際にその水素ガスの分布を可視化することに成功したのです。

「ガスは星のような強い光を放つわけでもなく、広く淡い構造のため、これまでは観測が困難でしたが、新しい観測装置で得られたさまざまな観測データからガスの分布が明らかになりました。銀河を超えるスケールでガスが網の目状に分布した構造を取っており、網の目の結節点の部分で銀河が育まれている様子がわかる興味深い観測成果です」
日々研究を進める久保先生ですが、宇宙解明のカギは、どれだけ広い視野を確保できるかだと語ります。「銀河の分布、つまり環境と銀河の進化には深い関わりがあると考えられるため、宇宙の広い領域を観測する『広視野観測』で銀河の分布をとらえる必要があるのです」
この広視野観測を得意とするのが、ハワイのマウナケア山頂にある日本のすばる望遠鏡です。満月9個分の広さの範囲を一度に観測できる可視光の超広視野主焦点カメラで広い視野を撮影し、珍しい天体を探索することができます。さらに2025年には、超広視野多天体分光器(ʻŌnohiʻula PFS、※)という非常に高性能な観測装置がすばる望遠鏡に搭載されました。
※すばる望遠鏡に設置されたPFSのハワイ名で、「私たちの起源を解き明かす」という意味が込められている。
「分光観測とは、プリズムを通して太陽の光を見たときのように、天体から発せられた光を波長あたりの強さとして分解した、スペクトルというものを記録する観測手法です。スペクトルからは、銀河の三次元的な分布のほか、どのような元素がどのような状態で存在しているかなどがわかります。したがって、分光観測を加えることで、銀河についてのさらに詳しい情報を得ることができるのです。PFSは10m級の大型望遠鏡の集光力で、極めて広い視野にわたり多数の天体に対して分光観測を行える、これまでにない装置です」
これまですばる望遠鏡が一度に分光観測できる天体の数は数10天体程度でしたが、PFSを搭載したことで一度に2400もの天体を観測できるようになったといいます。また近紫外線から近赤外線まで幅広い波長帯を一度に観測することができます。これまで遠方の銀河の分布を調べる際には、個別に分光観測していたため、大変な労力が必要だったと久保先生。PFSの稼働でより短い時間で観測できるようになり、さらに多くの天体を観測することが可能になったといいます。「私たちもPFSによる遠方銀河分布の大規模高精度観測を行い、データ解析を進めているところです。現時点では結果をお見せできませんが、今までにない詳細な大規模構造の地図が得られつつあります。さらにPFSの観測データから、新たな研究テーマが生まれてくるかもしれません」
すばる望遠鏡のほかにも、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などの大型望遠鏡の観測データを用いて、久保先生は研究を進めています。「近年観測的天文学を大きく飛躍させたのが宇宙から観測を行うJWSTです。2021年にJWSTが打ち上げられるまでは、100億年以上昔の宇宙の銀河の姿はまだまだ曖昧でした。高精度観測が可能なJWSTにより、ようやく銀河進化最盛期の銀河の形態が明らかになりつつあるといえます」
もっともJWSTの視野は狭く、満月の10分の1も満たせません。そのため、広い視野を観測できるすばる望遠鏡で新しい天体を探索し、見つかったら高精度なJWSTで詳しく観るというように、それぞれの強みを生かして役割が分担されています。
すばる望遠鏡のPFSやJWSTの登場で、宇宙の観測や研究は加速しています。しかしそれで宇宙の謎が明らかになりつつあるかというと、むしろ遠い宇宙がよく見えるようになったことで、新たな謎が次々と生まれていると久保先生は楽しそうに話します。
「銀河をはじめ宇宙の天体現象は美しく、宇宙の画像を見て癒されたり夢を膨らませたりする方は多いと思います。そこからさらに一歩進んで、その美しい画像の現象がどのように起こったのか、その背景にはどのような謎があるのかがわかれば、より宇宙が魅力的に感じられるに違いありません。宇宙を観測するおもしろさ、宇宙の謎を探求する楽しさを伝えていきたいですね」
取材対象:久保 真理子(関西学院大学理学部物理・宇宙学科 准教授)
ライター:岡田 千夏
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります