オトナ世代に伝えたい。SNSからひもとく、Z世代のトリセツ

CULTURE

オトナ世代に伝えたい。SNSからひもとく、Z世代のトリセツ

たびたび発生する、SNSにおける不適切動画の炎上騒動。その報道を見て「最近の若者は…」と思う大人も多いのではないでしょうか。だとしたらそれは少し、Z世代への理解が足りないのかもしれません。

1990年代半ばから2012年頃に生まれた、デジタルネイティブ世代、いわゆるZ世代には、どのような特徴があるのでしょう。ソーシャルメディアにおける行動心理分析を研究する土方嘉徳先生にZ世代のSNSの使い方をお聞きし、“トリセツ”を考えてみました。

Profile

土方 嘉徳(HIJIKATA Yoshinori)

1998年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻修了課程終修了。同年、日本アイ・ビ-・エム(株)東京基礎研究所入社。Webブラウザでの操作履歴から、ユーザーの興味や嗜好を推定する技術を開発。その後、ユーザーの深層心理に近づきたいと研究者の道へ進み、母校で博士号を取得し大学教員に。2017年より関西学院大学商学部准教授着任、2019年より教授。専門はソーシャルメディア論、社会情報学、社会心理学。

この記事の要約

  • Z世代は意外とSNSの使い方に保守的。
  • SNSが進化するほど情報の断片化が進んでいる。
  • SNSの過度な閲覧により、情報の再構築力を阻む可能性がある。

クローズドなZ世代のSNS環境。SNSはテレビと同じメディア感覚

30代以上の大人にとって、何かと感覚が違いコミュニケーションに悩むことも多いZ世代。ジェネレーションギャップと言えばそれまでですが、SNSにおいてもその違いは顕著なようです。

特にインターネット黎明期を経験した40〜50代と、生まれた時からSNSが身近な存在だったZ世代では、コミュニケーションツールとしての使い方に大きな違いがあると土方先生は話します。

「僕もそうなのですが、Windows95が発売された時代をリアルに体験してきた世代にとって、インターネットは世界中の人と繋がることを可能にした夢あるテクノロジーです。そのためSNSに対しても、この世代はオープンなコミュニケーションツールだと捉え、その恩恵を受けてきました。例えば僕の場合、Facebookを通じて世界中のIT研究者や技術者と交流したり、そこから講演会や仕事のオファーをいただいたりという恩恵を受けてきたわけです」

一方で、生まれた時からSNSがある世界で暮らしてきたのがZ世代。土方先生は普段の会話だけでなく、ゼミ生や商学部の学生に許可をとったうえでのアカウントの観察、協力してくれるゼミ生へのSNS利用動向のインタビュー調査など、多方面から長期的にZ世代とSNSの関係調査を行う中で、「彼らのSNS利用には、二つの特徴がある」と言います。一つはクローズドなコミュニケーション環境。もう一つは情報メディアとしての利用です。

「まずクローズな面ですが、アカウントを複数使い分けながらも、ほぼ全てに鍵をかけ、自身が許可した人のみに公開しているのが特徴です。特に学生がいうところの“リア垢”(リアルアカウントの略称で、公式に公開しているアカウントのこと。本記事では以下、“メインアカウント”)は、持ってはいても機能させていない。本学の学生を例に挙げると、Instagramのメインアカウントでは500〜600人と繋がっていますが、投稿はゼロというような人が結構います。閲覧専用や、そもそも使っていないけれどアカウントだけ持っているという人が多く見られます。

またサブアカウント(リアルアカウントとは別に、特定の目的で利用しているアカウントのこと。“リア垢”に対比させて“サブ垢”とも呼ばれる)にもいくつか種類があります。5人ほどのゼミ生にお願いして送ってもらったサブアカウントの投稿やストーリーズを分析したのですが、一番多いのは親しい友達とやり取りするアカウント。ここでは数十人ほどの規模でつながり、主にストーリーズという24時間で自動的に投稿が消える機能を活発に使っています。ですがメッセージを送り合うわけではなく、あくまで自己表現が目的。連絡はLINEでと使い分けていますね。

Z世代のSNSはアカウトを使い分け、多層的なのが特徴(画像はイメージ)

あと多いのが、趣味用のアカウントです。アイドルなどの推し活やペット、グルメの情報発信に利用し、趣味の合う人たちだけで繋がっている。こちらは身元がわからないようにしている場合は鍵をかけていないこともあります。アカウントをいくつか持っていても、基本的にオープンにコミュニケーションをするためのアカウントは、一つも持っていないことが多いのがZ世代の実態です」

オープンな利用が多い40〜50代とZ世代ではそもそもSNSの位置づけが異なるようです。となると、Z世代のSNSの使い方や、そこで何をしているのかを理解するのは難しいのかもしれません。また一言でSNSといっても、Z世代と40~50代が好むものは異なるように思います。その辺りもあってZ世代はInstagramやTikTok、40〜50代はFacebookと、棲み分けがされているのでしょうか。

「そうですね。InstagramやTikTokは写真・動画が中心ですので、論理的な中身がなくても発信できます。でも歳をとってくると、ちょっと難しいことを言ってみたくなるので用途に合わない。そのあたりの感覚もあって、棲み分けができているのかもしれません。とはいえZ世代がつぶやいている内容は、僕らが若者だった頃と大差はありません。違いがあるとすれば、大人は“投稿”(24時間で消えるストーリーズではなく、永遠に公開され続ける投稿)に前向きですが、Z世代は“投稿”を積極的には行わないところでしょうか。インフルエンサーの投稿のクオリティが高いので、下手な投稿は恥ずかしいという意識があるんです。学生の投稿を見ていると、メインアカウントで投稿するのは成人式や海外旅行など、かなり特別感のあるイベントの投稿に限られています」

Z世代では、「サブアカウントのストーリーズに投稿するぐらいが、適切な社会的行動とみなされている」と土方先生。周りの反応を気にして投稿内容や投稿先にも配慮しなければいけないとは…。なんだか面倒だと思ってしまうのは、私たちが大人になってしまった証拠でしょうか。

「そうですね。その辺りもZ世代と大人世代の感覚の違いかもしれません。またZ世代のSNS利用のもう一つの特徴である、情報メディアとしての利用というところでお話しすると、彼らは投稿については慎重ですが、画面を眺めている時間は長い。なぜなら、大人世代がテレビなどを眺める感覚なんですね。

これはいつの時代も同じですが、若者が魅力を感じる新しい切り口の表現や情報は、大人世代には理解が難しいもの。ですがZ世代が多く利用するSNSにはそうした内容が溢れています。またTikTokではしばしば投稿がバズり、拡散されることが見られます。Z世代にとってSNSは、テレビに先んじて旬の情報や面白ネタを手に入れられる最新メディアなのだといえるでしょう」

炎上しないようマネジメントも。実はSNSに保守的なZ世代

バズるといえば、冒頭でも触れた不適切動画等の炎上投稿もその一つです。しかしこういった炎上投稿を、Z世代特有の軽率な行為と見做すのは誤りだと土方先生は話します。

「こうしたイタズラをしてしまうのは、いつの世代の人間にも一定数いるもので、Z世代だからというわけではありません。そもそもZ世代は学校で、メディアリテラシー教育を受けています。僕にも子どもがおり、PTA会長を務めているのでよく知っているのですが、『SNSは危険』『ほどほどに使用しましょう』という話を聞いて育っているため、SNSの使い方については非常に保守的なんです」

保守的なだけでなく、リスクヘッジ能力が高いのもZ世代の特徴。彼らはアカウントをマネジメントすることで、波乱が起こりにくいSNS運用を行っているのです。

「そもそも、Z世代の特徴でもある複数のアカウントを使い分けることが、アカウントマネジメントなのです。その目的は、文脈崩壊(context collapse)を避けること。文脈崩壊とは、社会学の分野で2010年頃から話題となっている事象で、自分をフォローしてくれている人が多様になりすぎて、どのような内容の投稿をしても、それを歓迎しない人が出てくるということを意味します。

例えば僕ですと、Twitterのフォロワーで一番多いのはIT系の研究者や技術者ですが、技術的な話をすると彼らは“いいね”やリツイートをしてくれる。でも関学生のフォロワーは無反応です。逆にSNSを使ったマーケティングやSNSの今後といった話をすると学生の反応はいいけれどIT系の人たちは無反応。“どの層に向けて投稿すればいいんだ!?”となるのが文脈崩壊です。

しかしZ世代はアカウントを使い分けることでこれを回避します。彼らのすごいテクニックは、1アカウント内でつながった人たちのなかに、さらに仲良しグループを作るんですね。そしてここだけでは本音で頻繁に投稿しています。SNSを多層化させて使い分けることで、炎上を起こさない運用をしているわけです」

閉ざされた環境の中であれば活発に交流するZ世代。その行動は賢いとはいえるものの、やはり内向きです。これまでITベンチャーたちが起こしてきたような、SNSを外向きに使うことで他者とつながり、イノベーションやビジネスを起こそうとする意識がZ世代は薄いのではないかと、土方先生は話します。

「そこは、ソーシャルネットワークの恩恵を受けてきた僕ら大人にとっては、歯痒く感じるところかもしれません。これだけ賢い使い方ができるのだから、彼らの意識が変われば、これまでとは全く違う波を起こすプラットフォームとしてSNSを活用できるはず。それこそ社会を変える起爆剤になると思います」 とはいえ、その期待を押し付けるのも野暮というもの。私たち大人はSNSの使い方やコミュニケーションへの価値観の違いを理解したうえで、Z世代と接することが大切といえそうです。

SNSの出現で進む情報の断片化が、私たちの未来にもたらすものとは?

ここまでZ世代のSNSの使い方と、その裏側にある心理をひもといてきました。はたして、これでZ世代の“トリセツ”は完結するのでしょうか。SNSはZ世代、そして社会にどのような影響を与えるのでしょうか。その鍵を解くのがインターネット黎明期からさまざまなSNSが出現してきた現代に至るまでに見られた、情報発信に関わる機能面の変化だと土方先生は話します。

「この変化には3つの潮流があると考えます。まずマルチメディア化。次にエフェメラル。3つ目に情報の断片化です。

マルチメディア化というのは、テキストから画像、動画への変化です。初期のソーシャルメディアに大人には懐かしいmixiがありますが、この辺りからFacebookやTwitterまではテキストが中心。その後、Instagram、TikTokとマルチメディア化が進んでいきました。次にエフェメラルというのは、コンテンツが永久に残らないという変化で、Instagramのストーリーズ機能などがそれにあたります。そして3つ目の情報の断片化。僕はこれが最も危険をはらむ変化だと考えています」

インターネットが普及した当初の情報発信といえば、WEBサイトが主流でした。WEBサイトは複数ページで構成されているため、情報の粒度も大きく、私たちはサイトをしっかり読み込むことで、必要な情報を手に入れるといった使い方をしていました。

「しかしブログが出てきたことで、その流れは一気に変わりました。1記事、1ページ単位で情報を発信、完結するため情報の粒度が小さくなり、情報が断片的になりました。そしてSNSが出てきたわけですが、mixiあたりまでは比較的ブログの文化を引き継いでいたものの、タイムラインというシステムを導入したFacebookの登場で、情報の粒度は一気に下がりました。さらに情報断片化の拍車をかけたのが、140文字という制限が設けられたTwitterの存在です。

タイムラインは、2000年代最大の発明と言っても良いかもしれません。クリックを必要とせず、ひたすら画面をスクロールしていれば、次から次へと新しい投稿(コンテンツ)が出てくるのです。そのインタフェースでは、長いテキストでの投稿は、閲覧するのに不便になります。また、ある一定の長さ以上のテキストは、折りたたまれて(非表示で)表示されます。そうすると、ユーザーには長い内容の投稿をしようとするモチベーションが失われていきます。SNSの運営者(プラットフォーマー)も、ユーザーをサービスから離脱させないようにするため、次から次へとユーザーが興味を持ちそうな投稿やコンテンツを提示します。ユーザーは、ひたすらスクロール(スマートフォンではスワイプ)していれば良いのです。

そして今、15秒の動画からなるTikTokが、若い世代に大きな影響を与えています。SNS側の企業努力もありますが、短い動画が流れ続ける画面を30分や1時間も見続けてしまうという人が少なくありません。物事が切り離された断片的で論理が存在していないコンテンツを、ずっと見続けることが将来何をもたらすのか。これは非常に大きな問題になる気がしています」

土方先生は、情報の断片化が進み、短くて刺激的な情報を大量に浴びるようになると、物事を論理的につなげ、体系化して考える能力が養われにくくなるだけでなく、小説や映画などの魅力を享受しないまま一生を終えてしまう可能性があると、警鐘を鳴らします。

「断片化された情報をすべて吸収して、自分の中で再構築できれば良いのですが、包括的な情報に触れていないことで、再構築が難しくなっているのではないでしょうか。さらに昨今ではレコメンド機能の進化により、閲覧履歴などを元におすすめの情報がAIからどんどん提供されています。YouTubeもそうですが、SNSですと特にInstagramとTikTokで顕著です」

SNSを見続けてしまうのは、何もZ世代だけの話ではありません。30代の大人、もしくはそれ以上でも、以前は本や映画に費やしていた時間を、SNSに割いてはいないでしょうか。 私たちは気付かぬうちに、論理的に情報を取得することを避けるようになっているのかもしれません。

「これが進むと、情報獲得やコミュニケーションをAIによって制御されてしまう恐れがあるんですね。特にZ世代より若い世代に、その傾向が強いと思います。何しろおとなしくさせているのに都合が良いと、幼児の頃からYouTubeを見させられたり、知育玩具としてタブレットが与えられている時代ですから」

子どもの論理的思考能力を育みたいと願う一方で、実は、子どもの能力の成長を阻害する子育てをしているかもしれない現代の大人世代。複雑化したSNSを器用に使いこなすZ世代の理解だけでなく、自身のSNSの使い方を見直すことも必要なのかもしれません。まずは積読していた本を手に取ることから、この休日を。

取材対象:土方 嘉徳(関西学院大学商学部 教授)
ライター:蔵 麻子
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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