CAREER

父と二人の先生から学んだこと|人生を豊かにした出会い #8

中後 大輔工学部 教授

私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?

私が中学生だった頃、千葉県の田舎に住んでいたのですが、近くの踏切で過積載の荷物を積んだダンプカーが踏切で止まれず、電車と衝突して電車の運転手さんが亡くなるという事故がありました。そのニュースを見た私が「違法な過積載をしなければ助かったのに」とつぶやいたところ、父から「過積載はいけないことだけれど『過積載をしなければ生活ができない』という理由があったはず。そうした事情を知れば、ダンプカーの運転手さん責めたとしても、人としての温かみがどこか言葉の中に出てくるよ。今のおまえの言葉は冷たい」と諭されました。それ以来、「この社会で起きる出来事の背景には、必ず構造的な問題がある」と考えるようになりました。私が今、「人に寄り添うロボット」の開発に取り組むのも、高齢者の介護の世界で起きている構造的な問題の解決に少しでも貢献したいという思いがあるからです。

自分たちの背後にある「構造」について考えることの大切さについては、二人の恩師からも教わりました。

一人は高校時代の先生です。ある日の授業中、友だちと私語で盛り上がっていたときに、こんな大目玉をくらいました。「君たちは自分が勉強ができたからこの学校に入学できたと思っているだろう。しかし君たちが合格した影には、不合格だった人が何百人もいるんだ。この学校で心から学びたかっただろうその人たちのことを考えたら、ふざけた態度で授業を受けるなどありえない」。

また、大学の恩師である淺間一先生から、こんなことを言われたことも強く記憶に残っています。「私たちが大学で行う研究の原資は、一人ひとりの国民の方々が働いて稼いで、納めてくれた税金にほかなりません。いま自分が研究のために使おうとしているお金の用途をその人たちが見たときに、『これにお金を払って良かった』と思ってもらえるかどうか、常に胸に手を当てて考えるようにしてください」

私たち研究者は、ともすれば大学の中だけに閉じこもってしまいがちで、普段交流するのも自分と同じような大学の人だけになる傾向があります。しかし父と二人の先生が教えてくれたように、いま自分たちがいる大学という場所も、その場にいない人たちによって支えられているということを、忘れてはならないと思います。

Profile

中後 大輔(CHUGO Daisuke)

関西学院大学 工学部 知能・機械工学課程 教授。博士(工学)。2000年東京理科大学理工学部卒業、2005年埼玉大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。電気通信大学大学院情報システム学研究科助教などを経て、2009年4月関西学院大学理工学部人間システム工学科着任。2009年12月~2015年3月独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター 客員研究員。“人と共存するロボット開発”をメインテーマに、ロボット制御技術の開発などを行っている。

運営元:関西学院 広報部

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