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研究者としてあるべき姿を見せてくれた、二人のノーベル賞受賞者|人生を豊かにした出会い #13

今岡 進生命環境学部生命医科学科 教授

私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?

学生時代、ノーベル賞は神様みたいな人がもらうものだと思っていました。しかし二人のノーベル賞受賞者との出会いにより、その印象は随分変わりました。

一人は、山中伸弥博士。彼とは同じ教室で博士号を取りました。ある日、なんだか暗い様子だったので理由を訊ねたところ、「明日がゼミの発表日なのに、データが全然そろっていない」と嘆いた姿に、とても共感したことを覚えています。後に私が学会で発表をした際、一緒に食事をし、当時まだ公表していなかったiPS細胞の話をしてくれました。そのとき彼が語っていたのは、記録を残しておくことの大切さです。いい結果が出れば、誰しも我先にと発表したくなってしまうもの。しかし同じ実験をほかの人が再現できなければ、ウソだと言われます。「いくら優秀な先生でも、ひとたびミスを起こすと一気に信用を失う」「間違った論文を出してしまうと、その世界で生きていけなけなくなる」。そんな彼の言葉に、身が引き締まる思いでした。何回も実験を繰り返し、絶対に間違えていないという裏付けを得てから世に出さないと、取り返しのつかないことになりかねません。それから何年か後に成果を発表し、山中博士はノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

もう一人は、グレッグ・セメンザ博士です。私が研究を進めていたHIF(低酸素誘導因子)を発見された人なのですが、彼のいるアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に後輩が留学していたので、アメリカ出張の際、会わせてもらえるようお願いしたのです。すると博士は二つ返事で快諾。研究室を隅から隅まで案内し、すべてをオープンに話してくださいました。日本人は研究内容を隠しがちですが、アメリカ人はなんでも教えてくれる傾向にある。お互いの情報を交換したほうが、イノベーションは起こりやすいという思考なんでしょうね。以来、私も自分の研究について全部さらけだし、意見を聞くようにしています。もし真似をされたら、それだけ素晴らしい研究だったということ。誰もがやらない次元のことをすればいいだけです。セメンザ博士とはその後も情報交換を続け、初めてお目にかかってから十数年後の2019年に、ノーベル生理学・医学賞を獲得されています。

彼らとの交流を通じて、ノーベル賞が身近なものに感じられるようになりました。二人とも、人が考える何ステップも上のことを考えていたのはもちろんなのですが、その根底には、研究者としての揺るぎない姿勢があり、それが何よりも大事だということを学びました。その世界でトップの人たちとふれあえたことが、今も研究者としての私の糧になっています。

Profile

今岡 進(IMAOKA Susumu)

関西学院大学生命環境学部生命医科学科 教授。博士(理学・医学)。大阪大学理学部卒業後、大阪市立大学医学部(現・大阪公立大学)、大阪大学蛋白質研究所などで学位を取得。専門分野は蛋白質化学、生化学、環境生命化学、環境応答制御学。研究テーマは低酸素、外来環境刺激(低酸素や酸化ストレス)による幹細胞の作製、酸化ストレス、寿命延長など。酸化ストレスを抑制することで寿命が延びることを明らかにして、その分子メカニズムについて検討している。

運営元:関西学院 広報部

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