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ニュージーランドと日本での恩師との出会いが教育者への道を開く|人生を豊かにした出会い #17

一言 英文文学部 総合心理科学科 准教授

私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?

私は父親が英語教師だった関係で小学2年生から5年生まで、ニュージーランドで暮らしていました。ただ、当時の私は英語がまったく話せなかったので、行ってからすぐは小学校で誰共コミュニケーションが取れない状態。そこで担任のペリー先生がマンツーマンで英語の勉強時間を取ってくださったんです。最初は幼児向けの絵本を読むところから始め、根気強く教えていただいたおかげで最終的に日常会話が無理なくできるまでになりました。

当時、日本の学校教育ではこういった生徒個人の特殊性に合わせた支援という概念が浸透していなかったので、時間内の個別指導に「自分だけこんなに優遇してもらっていいのかな」と思ったのですが、ニュージーランドでは、多様性を認め合うイギリス式の教育文化を導入していることもあり、ペリー先生にとってはごく普通のことだったんです。

ニュージーランドから日本に戻ってきた私は、両国の文化の違いからずっと心の中にモヤモヤした感情をくすぶらせていました。日本文化を理解するために剣道や居合道をやってみたのですが、それのみでは何か物足りず、「本当に文化を理解するには伝統の奥にある精神性、自覚できない価値観やものの捉え方を意識すべき」と感じるようになりました。

その後、関西学院大学に進み、大学3年生の時に恩師である松見淳子先生の比較文化心理学の授業を受講したのですが、私が抱えていたモヤモヤした感情を晴らしてくれるような類の研究を行う学術分野があることに衝撃を受けました。そこから松見先生のもとで教えを請い、大学院で博士号を取得。以後もさまざまな機関や大学で比較文化心理学の研究に打ち込むようになりました。

私が教育者を志すようになったきっかけはペリー先生、松見先生との出会いがあってこそ。お二人の教えがあったことで教えることの楽しさを知り、自分のように文化的なクロスオーバーを経験した人の心の健康と向き合いたいと思うようになりました。

また、ペリー先生との体験は、今の自分の教育方針にも大きな影響を与えています。大学の講義では、どうしても「私と大勢の学生」という単純な関係性になりますが、そんな状況でもペリー先生がやってくれたような「個人に向けて根気強く教える」という気持ちは持っていなければと思っています。ペリー先生との出会いがなければ、私は教えることにここまで熱意を持っていなかったと思います。

日本には現在、海外からたくさんの人が移住し、言葉がわからないために教育の場からドロップ・アウトしてしまう子どもが増えています。国の方針としてはこうした状況に支援が重視されているものの、私がペリー先生にしてもらったのと同じぐらい個人で異なるニーズに対する手厚い支援が行われているのかは疑問なところです。今後は自分の研究を通して、人の心の文化的な特徴や、それを踏まえた異文化間教育の支援に貢献できればと思います。

Profile

一言 英文(HITOKOTO Hidefumi)

関西学院大学文学部卒業。関西学院大学大学院文学研究科にて心理学専攻博士課程を修了。公益社団法人国際経済労働研究所準研究員、佐藤学園大阪バイオメディカル専門学校常任講師、ミシガン大学心理学部客員研究員、京都大学 こころの未来研究センター特定助教、福岡大学人文学部講師などを経て、2020年より現職。日本感情心理学会、日本心理学会会員。

運営元:関西学院 広報部

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