真の豊かさと共生、そして、平和と希望を生み出す道とは |聖書に聞く #20
舟木 讓経済学部教授・宗教主事
関西学院のキリスト教関係教員が、聖書の一節を取り上げ、「真に豊かな人生」を生きるヒントをお届けします。
そこで、幾らかでも、キリストによる励まし、愛の慰め、霊の交わり、憐れみや慈しみの心があるなら、同じ思いとなり、同じ愛を抱き、心を合わせ、思いを一つにして、私の喜びを満たしてください。
フィリピの信徒への手紙2章1-2節
今、世界は、自らが考える「正しさ」を冷静に検証することなく、「利益」や「価値観」を最優先することで、「分断」と「憎悪」をこれまで以上に増殖させ、その結果、多くの人の「いのち」さえ軽んじられる状況に見えます。そして、この傾向は紛争や戦争を維持している人々にだけ見られるものではなく、私たちの日常においてもしばしば見られる「人間の傲慢さや弱さ」ではないかとも思います。
本日の聖書箇所、「同じ思い・同じ愛・心を合わせ・思いを一つに」という言葉は、相互理解や協力、また、多様な人々との共生を勧められていると考えられます。しかし、そのことを真剣に実践しようとするとき、誰しもそれがとても難しく、立ち止まってしまう、苦悶してしまうこともあるでしょう。また、私たちは気づかぬうちに自らの価値観を「ものさし」にして、他者にさまざまな評価やレッテルを貼り、自分だけが「幸せ」なら良しとする、「乱暴な姿勢」があることに気づくかもしれません。
なお、この引用文の続きにはそのことを明示するように、次のような記述があります。
「何事も利己心や虚栄心からするのではなく、へりくだって、互いに相手を自分より優れた者と考えなさい。めいめい自分のことだけではなく、他人のことにも注意を払いなさい」
ここには、他者が自らと同じ痛み、悲しみ、苦しみを感じ、平安で幸福な人生を希求している存在であるという当たり前の事実、そして、そのことを意識して生きるべきだという強い示唆があります。
もちろん、こうした教えを日常的に実践することはなかなか困難で、お互いが心がけるべき単なる理想であるというようにも感じてしまうこともあるでしょう。しかし、人は自らの力だけでは「いのち」を紡いでいくことができない存在です。だからこそ、その実践が重要だと気づかなければと思うのです。
私たちは、自身が大切にしてきた「価値観」や「常識」と異なる人々と出会うと、ときに不安や負担を感じます。ただ、そうした人々との出会いこそが、自分が無意識のうちに囚われ、生き難くしていた壁を取り除く貴重な機会だとも捉えられる。お互いを尊重し合って「平和」やその内にある「真の豊かさ」を生み出すことにつながると信じるのです。
閉塞感のある現在を、希望ある未来へと、共につくり変えて行きましょう。
Profile
舟木 讓(FUNAKI Jou)
1961年京都市に生まれる。高校卒業後、一年のフリーター生活を経て、(株)便利堂に印刷工として就職。在職中にクリスチャンとなり、1984年関西学院大学神学部入学、1988年同卒業、1990年同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。日本基督教団京都御幸町教会担任教師、同神戸栄光教会担任教師を経て、1998年関西学院大学経済学部教員・宗教主事に就任、現在に至る。大学宗教主事、宗教総主事を経て、2019年4月から2022年3月まで第17代院長を務める。
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