WELL-BEING

人生の背景に心を向けてみる |聖書に聞く #21

小田部 進一神学部 教授

関西学院のキリスト教関係教員が、聖書の一節を取り上げ、「真に豊かな人生」を生きるヒントをお届けします。

朝早くまだ暗いうちに、イエスは起きて、寂しい所へ出て行き、そこで祈っておられた

マルコによる福音書1章35節

随分前のことですが、本学のある方がチャペルの時間を絵の背景にたとえて説明していたことがとても印象に残っています。私のメモに内容が残されています。

私たちが絵を描くとき、ついつい絵の中心となる図柄にばかり目を向けてしまうけれど、時にはキャンバスから離れて、絵の背景にも注意する必要があるというのです。なぜなら、いくらきれいな花を描けても、背景次第で全体としての絵が台無しになることもあるからです。「だから、人生という絵を描くときにも、目の前の仕事や課題ばかりを追いかけていては美しい人生は描けない。仕事を美しく見せる背景を大切にした生き方を大切にして欲しい」というメッセージがそこに込められていました。私が時々思い出す言葉の一つです。

聖書は、イエスが一人で人里離れた場所で祈っておられたことを繰り返し報告しています。イエスは、群衆に教えを説き、また癒しの業を行い、とても活動的な日々を過ごしていました。しかし、朝早くに、つまり活動を始める前に一人で祈る時間をとても大切にしていたのです。イエスにとって祈りは、静けさの中で神のみ心を問い、そこに心を向ける時間でした。

本学には、1限と2限の授業の間にチャペルの時間があります。学生たちは、日々の授業や課題との取り組みから少し離れて、静けさの中で聖書の言葉に耳を傾けます。ミッション系大学ならではのとてもユニークな制度です。しかし、それは単なる制度ではありません。

私は、このチャペルの時間が学生にとっても、自分の生き方や人間関係を見つめなおす時間になり、ひいては、人生の背景に目を向ける、人生を長い目で捉える、有意義な時間になると思うからです。また、こうした時間を重ねていくことが人生をより豊かな次元へと高めてくれる…そう信じる一人として、チャペルの時間(祈りの時間)を繰り返すことは、生きるうえで大切な「人生の習慣」を身につけることにつながるのではないかと考えているのです。

人は、目の前の課題に行き詰まりを感じているとき、人間関係に疲れを覚えるとき、その問題から距離をおいて、大きな人生の背景の中でそれを眺める意識や時間が必要でしょう。それは、目の前の成功や幸せで浮かれそうなときも同じです。経験や感情を俯瞰して捉えることで、次のステージにも活きることでしょう。その意味で、普段から「人生の習慣」として、仕事に行く前に、あるいは仕事の後で、人生の背景に心の目を向け、耳を傾ける時間を持つことは大事になるのではないでしょうか。「人生の習慣」は危機を迎えたとき時に力を発揮します。

Profile

小田部 進一(KOTABE Shinichi)

関西学院大学神学研究科前期課程修了、ミュンヘン大学プロテスタント神学部博士課程修了。博士(神学)。日本基督教団高槻教会伝道師、玉川大学文学部教授を経て、2019年度より関西学院大学神学部教授(歴史神学)。著書に『ルターから今を考える – 宗教改革500年の記憶と想起』(2016)、共著に『宗教改革の現代的意義:宗教改革500年記念講演集』(2018)、『宣教とパンデミック』(2022)などがある。

運営元:関西学院 広報部

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