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数学は、日常の中の小さな「問い」に答えをくれる|大人のための学びの心得 #6

市田 優理学部 数理科学科 助教

目まぐるしい速さで世の中が変わる今、社会に出てからも学び続けることを意識している方は多いのではないでしょうか。“大人の学び”で得た知見やスキルはキャリアアップだけでなく、これからの日々をより豊かに生きるための糧になるかもしれません。そこで学び続けることを体現する研究者たちに、学びのコツを教えてもらいました。

学部1回生の微分・積分の授業を担当しています。授業にあたって、意識していることが2つあります。1つは数学を嫌いにならないでほしいということです。大部分の学生にとっては人生で最後の数学の授業になるでしょう。最後だからこそ、「なんとなくわかった」「ちょっとはおもしろかった」とポジティブな気持ちになってもらいたい。そんな学生たちが大人になれば、次の世代は少しでも数学を好きになってくれるのではないか……と期待しています。

もう1つ、意識して伝えているのが、数学は身の回りにあふれているということです。たとえば、コーヒーを飲みたいと思ったときに、どうドリップすればおいしくなるのか。実はこれも立派な数学の問題で、論文として発表されたこともあります。あるいは、私は京都の歴史ある神社を見に行ったときに、屋根の不思議なカーブが気になったことがあります。なぜこんな形をしているんだろうと考えてみると、水はけを良くすることで木材が傷まないようにしているのではないかと、仮説が浮かびます。ここで少し数学の知識を使って、屋根に降った雨粒が一番早く流れる曲線を考えると、サイクロイドという曲線が該当します。理論としての数学を知らなかったであろう昔の人が、経験と勘でその曲線にたどり着いたと想像するとワクワクしますよね。それでは、サイクロイドは他にどんなところに使われているのだろうか?と妄想が膨らみます。

人生を豊かにするようなちょっとした問いは世の中にたくさん隠れていて、それに答えるための道具の1つとして数学があります。いつか必要になったときに「ちょっと勉強し直してみようかな」と思ってもらえるように、学びへのハードルをなるべく低くしておくことも教員の役割ではないかと感じているところです。もちろん、数学だけでなく歴史や芸術、あらゆる分野に興味のアンテナを広げていれば、さらにたくさんの問いと出会えるのではないでしょうか。

Profile

市田 優(ICHIDA Yu)

関西学院大学理学部数理科学科助教。明治大学理工学研究科数学専攻にて博士後期課程を早期修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員DCおよびPD、明治大学理工学部兼任講師などを経て、2024年4月より現職。明治大学先端数理科学インスティテュート研究員を兼任。主な研究テーマは「力学系理論と微分方程式」や「現象の数理解析」で、数理モデルを用いたさまざまな現象の数理的構造の解析に取り組む。「(広い意味での)防災数学」を掲げ、日常のさまざまな「災い」を取り除くべく分野横断型の共同研究に積極的に取り組んでいる。

運営元:関西学院 広報部

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