CAREER

政策の背後にあるイデオロギーを建設的に批判できる研究者に|人生を豊かにした出会い #03

寺沢 拓敬社会学部 准教授

私たちの人生は出会いにあふれています。みなさんは、どんな出会いが記憶に残っていますか? ここでは「人生を豊かにした出会い」をテーマに、関西学院の研究者のエピソードを紹介します。彼らの出会いや体験から“豊かさ”について考えてみませんか?

大学時代は教員養成課程ではなく、人文学部の教育学専攻でした。そこで、言語教育の世界と出会いました。そのきっかけにもなった書籍が、『An Introductory Reader to the Writings of Jim Cummins』です。ジム・カミンズという、アイルランド出身の研究者による論文集で、卒業論文の構想を練っていたとき、指導教員に紹介してもらったなかの一冊でした。

カミンズは、二言語併用で行う教育という意味での「バイリンガル教育」の学者です。言葉だけ聞くと、英才教育のイメージになるでしょうが、彼が行ってきたのは、二言語を併用して受けざるを得ない人たちの教育をいかに行うかの研究。アメリカでは、移民の子どもを早く社会に順応させるには、英語漬けにしたほうがいいという固定観念がありました。そのことに警鐘を鳴らし、厳しく打破しようとするカミンズの姿勢に、私は大きな感銘を受けたのです。

日本にもアメリカと同じ考えが根強くありますが、現地語漬けで教育をするのは、実は子どもたちのためになりません。自身の母語を利用しながら、現地社会の言語を併用して教育を行う方が、児童や生徒の教育的発展を見込めることを、カミンズは研究を通じて実証しました。同時に、運動家的なところもあり、いかに二言語併用教育を導入していくかという活動にも力を注いでいます。

私自身、この本に出会うまでは、このまま教育学科で、教育的な観点から物事を考えていくだろうと思っていましたが、政策の背後にあるイデオロギーを建設的に批判していくことも重要だと彼の本から学びました。そして、自分が批判的に貢献できるところをと探していくうちに、英語教育政策の研究に水路づけられたわけです。

教育は基本的に、科学的な研究だけでできる分野ではないので、どれだけ中立的な立場をとろうとしても、必然的になんらかの政治的なアクションにつながっていきます。自分の研究がどう政治的に使われるか、あるいは使ってもらうかも考えながら研究しなければなりません。ジム・カミンズの研究への姿勢は、まさにこれを体現したものでした。実際に会ったことはありませんが(実は、研究室のドアの前を通り過ぎたことはあります)、心のなかで非常に尊敬しています。

Profile

寺沢 拓敬(TERASAWA Takunori)

関西学院大学 社会学部 准教授。博士(学術)。現在はブリティッシュコロンビア大学で在外研究中。専門は、言語政策、応用言語学、教育社会学。とくに日本社会における外国語をめぐる制度・言説について、社会学理論・手法にもとづいて研究している。主な著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書)、Learning English in Japan: Myths and
Realities (Trans Pacific Press)、『「日本人と英語」の社会学―なぜ英語教育論は誤解だらけなのか』(研究社)、『「なんで英語やるの?」の戦後史―《国民教育》としての英語、その伝統の成立過程』(研究社)など。