WELL-BEING

木から降りて ― 等身大で生きる |聖書に聞く #12

小見 のぞみ聖和短期大学宗教主事・教授

関西学院のキリスト教関係教員が、聖書の一節を取り上げ、「真に豊かな人生」を生きるヒントをお届けします。

イエスはその場所に来ると、上を見上げて言われた。「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、あなたの家に泊まることにしている。」

ルカによる福音書19章5節(聖書協会共同訳)

聖書には珍しい、ビジネス界でそこそこ成功していたザアカイという人のお話。この人、今でいえば大都市の税務署長といったポストにあり、財力もあった(金持ちだった)けれど、人望はまったくない人物でした。

そんなザアカイが、今いるところは木の上です。評判のイエスをひとめ見たいけれど、背が低くて、人々に阻まれて無理っぽい。それで先回りして沿道の木に登ってこっそり見ようとしたのです。大の大人の木登りですから、なにかよほど切実な思いがあったのでしょう。すると、あれあれ? イエスが木に近づいて来るではありませんか。そして、上を見上げて、多分ザアカイと目があった! そして、言ったのがこの言葉でした。

「ザアカイ」・「降りて来なさい」・「あなたの家に泊まることにしている」

イエスは名前を呼びます
名前って不思議です。たかが記号ですが、その人の存在を表します。名前をちゃんと呼ぶことは、その人を、あなたがそこにいることを、認め、受け入れているということなのです。最近、どんな名前で呼ばれていますか? 主管とか、課長とか、もしかして部長とか? 先生、マスター、○○ちゃんママ、お父さんとか?「おい」や「ねぇ」がほとんどで、名前を呼ばれていないとか? なぜザアカイの名前を知っていたのかわかりませんが、イエスは、何かほかの記号ではなく、いつもあなたの名前を呼ばれる方。あなた自身であることこそ大切だと言うようです。

木から降りておいで
この社会では、自分を大きく見せなければ、それなりに格好つけなければと、木に登らされることがけっこうあるような気がします。逆に自分をことさら小さく、卑下することもあるし、人から見下されることもありますよね。イエスの言葉は、「私と同じ地面に立ってごらん」。頑張って大きく見せることも、小さくなることもない。背が低いザアカイのままで、等身大の、ありのままの、あなたでいいと言われるのです。

あなたの家に泊まることにしている!?
この話をするとき、いつも学生に「初対面アポ無しで即お泊まりは、イエスさま以外は駄目よ」と言うのですが、イエス、無茶ぶりですよね。お家に泊める人って、本当にSpecialです。かなりの友だちでなければ泊めませんし泊まりません。でも、イエスは、あなたがなんと思おうと、「あなたが大好き」「一人ぼっちじゃないよ、いっしょにいるから」と、悲しいときに必ず言ってくださる―そんな不思議な方なのです。

Profile

小見 のぞみ(KOMI Nozomi)

東京(新宿)生まれの東京(東村山)育ち。聖和大学教育学部キリスト教教育学科、Presbyterian School of Christian Education卒業。博士(神学)。現在、聖和短期大学教授、宗教主事。著書に、『奪われる子どもたち―貧困から考える子どもの権利の話』、『非暴力の教育―今こそキリスト教教育を』など。
※「聖和短期大学」は2024年4月1日より「関西学院短期大学」に校名変更いたします。

運営元:関西学院 広報部

この記事が気になったら、
感想と共にシェアください

  • X(Twitter)
  • Facebook
  • LINE
  • URLをコピー