ひと昔前のカルチャーが流行るのはなぜ? 社会学でひも解くリバイバルブーム

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ひと昔前のカルチャーが流行るのはなぜ? 社会学でひも解くリバイバルブーム

「昭和レトロ」「平成レトロ」といったリバイバルブームが何年も続いています。インスタントカメラやカセットテープのような当時のアイテムをはじめ、ファッション、音楽、映画やドラマなど、さまざまなジャンルで目にするリバイバル。ひと昔前のカルチャーが、なぜ若い世代から支持されているのでしょうか。文化社会学やポピュラーカルチャー史を専門とする難波功士先生に、ブームが起こる背景や歴史についてお話を伺い、リバイバルがもたらす意味について考えます。

Profile

難波 功士(NANBA Kouji)

関西学院大学社会学部教授。東京大学大学院社会学研究科修士課程を修了、博士(社会学)。博報堂勤務を経て、1996年に関西学院大学に着任、2006年より現職。専門は広告の社会史、文化社会学、メディア文化論。著書に『広告で社会学』(弘文堂)、『テレビ・コマーシャルの考古学―昭和30年代のメディアと文化―』(共編著、世界思想社)など。

この記事の要約

  • リバイバルには「懐古」と「回顧」の2つの要素がある。
  • 日本では1980年頃から約20年ごとにリバイバルブームの波が起きている。
  • ブームはメディア環境と社会情勢の変化と連動している。
  • 過去のコンテンツの再評価・再編集から新しいものが生まれ続けている。

リバイバルブームが起こるメカニズムとは?

そもそもリバイバルブームとは何でしょうか。詳しくひも解いていく前に改めて定義をたずねてみると、リバイバルには「懐古」と「回顧」の2つの要素があるのではないかと難波先生は話します。

「単純に古いものを懐かしむ『懐古(=ノスタルジー)』と、過去を振り返って新しい解釈を加えたり価値を再発見したりする『回顧(=レトロスペクティブ)』。その両方が合わさったとき、リバイバルブームが起こるのではないでしょうか。ただ昔が懐かしいというだけでなく、そこに新しい発見があり、その時代を直接知らなかった世代も反応することによってブーム化するのだと思います」

ブームという現象は、社会学では「同一化」と「差異化」という言葉で説明できるそうです。

「群れから離れたくない欲求(=同一化)と、周りの人とは違っていたい欲求(=差異化)のバランスによって、ブームが起こると考えられます。周りとはちょっと違うんだけど、同調してくれる人がいないわけではない。そんな絶妙なバランスによってブーム化する。でも、どんどん広がってみんなに共有されてしまうと、差異化にはならないので、ブームは終わりを迎えます」

通常はこのようなメカニズムでブームが収束するものの、リバイバルブームの場合は、「過去から持ってくるアイテムが少しずつ変化していくことでずっと続いてきたのではないか」と難波先生は分析します。

何度も繰り返される日本のリバイバルブーム

難波先生によると、これまでに日本で起こったリバイバルブームは、大きく3回の波に分けられると言います。第1次リバイバルブームは、1980年前後。1950年代のファッションに身を包み、その頃生まれたロックンロールやロカビリーに合わせて踊る「ローラー族」が登場した頃です。フィフティーズやオールディーズと呼ばれる音楽やファッションが日本で流行した背景には、海外のリバイバルブームの影響があります。

ローラー族のイメージ。ロカビリーはロックンロールとアメリカのカントリー音楽であるヒルビリーの要素が融合して発生した、音楽ジャンルの一つ

「1973年には『アメリカン・グラフィティ』という青春映画がアメリカでヒットし、翌年には日本でも公開されました。のちに『スター・ウォーズ』を生み出すジョージ・ルーカス監督が自分の若い頃、つまり1960年代初頭を舞台にした映画なので、アメリカの人たちにとっては懐かしいのですが、日本の若者には目新しくておもしろいと受け止められたわけです」

つまり、アメリカでは「懐古」、日本では「回顧」として受け取られたと言えるのかもしれません。他にも、海外から日本に波及したリバイバルの例として、難波先生はモッズスタイルを挙げます。

「1979年のイギリス映画『さらば青春の光』をご存じでしょうか。最近の学生には『それって、お笑いコンビですか?』と言われてしまいますが(笑)。この映画をきっかけに、もともと1960年代にイギリスで流行したモッズファッションや音楽のリバイバルがあり、それが日本に波及して、新鮮なものとして受け入れられたという流れもありました」

その後、バブル期には下火となったリバイバルブームですが、バブル崩壊を経て、2000年前後に次の波がやってきます。

「私が第2次リバイバルブームを強く意識したのは、2001年に大ヒットした映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』がきっかけです。この映画には、高度経済成長期を懐古するようなコンテンツが散りばめられていて、子ども向けというよりも、明らかに子どもの親世代に向けて作られています」

他にも、2005年に公開された映画『ALWAYS 三丁目の夕日』や、2000年から2005年にかけて放送されたドキュメンタリー番組『プロジェクトX』など、「あの時代は良かった」と過去を振り返るようなコンテンツが多く見られる2000年代。難波先生は社会学の「集合的記憶」という概念を取り上げ、このように解説します。

「集合的記憶とは、個人的な記憶ではなく、『みんながこう思っている』という集団による記憶。実際は、昭和と呼ばれる時代は長いですし、昭和に関する一人ひとりの個別のイメージがあるはずです。でも、『三丁目の夕日』にまとめられた昭和のイメージが定着し、今や昭和と言えば多くの人があの映画の世界を思い浮かべるのではないでしょうか」

「2000年代からの流れがずっと続いているとも言えますが」と前置きしつつ、2020年前後が3度目の大きな波、第3次リバイバルブームではないかと話す難波先生。その代表例として挙げたのが、1970年代後半から1980年代にかけて日本で制作され流行したシティポップの再評価です。近年のリバイバルブームの特徴について、難波先生はこう語ります。

「シティポップもそうですが、音楽やファッションなど、日本の過去のコンテンツが海外で再評価され、日本でも改めて見直されるという流れが最近は増えているように思います。また、2000年代のトレンドを取り入れたY2Kファッション(※)など、ちょっと前の時代のスタイルはダサいと感じるけれど、さらに上の世代の流行までさかのぼると素直に受け入れられるという若者の心理もあるのかもしれません」

※2000年頃に流行した取り入れたファッションのこと。Y2Kは「Year2000」の略。

ブームの背景にあるのは、メディア環境と社会情勢

1980年・2000年・2020年頃と、約20年ごとに大きな波がありながらも、リバイバルブームがこれほど長く続いてきたのはどうしてでしょうか。

「特に2000年代以降、一番わかりやすい要因として挙げられるのは、メディア環境の変化です。YouTubeなどの普及によって動画や音源が出回るようになり、昔の作品がいくらでも掘り起こせるようになった。シティポップの再評価も、YouTubeやSpotifyなどがなければ起こり得なかった現象だと思います。海外の人も含めて誰もが自由にアクセスできるからこそ、海外からの評価が国内でのブームにつながるという流れがありますね」

一例として、2020年にインドネシアの女性シンガー・RainychがカバーしてYouTubeにアップロードしたことをきっかけに、松原みき『真夜中のドア~stay with me』(1979年)がSpotifyグローバルバイラルチャートで15日連続世界1位を記録した事例を紹介してくれました。

メディア環境と言えば、SNSの影響も大きいのでは?と問いかけると、「SNSによってリバイバルブームがつくられたというよりは、SNSによってブームが加速していった」と難波先生は分析します。

「SNSで『映える』『エモい』といった価値観が広がっていったのが2010年代。町中華や純喫茶、銭湯などのブームは、SNSの影響が大きいでしょうね。一人でレトロなものを愛でていても寂しいけれど、とりあえず写真を撮ってSNSに投稿すれば、同じものが好きな人たちと一緒に盛り上がれる。そういった環境が整ったことが、ブームを加速させていると感じます」

純喫茶イメージ。「映え」を定着させ共有するツールとして、リバイバルブームにおけるSNSの役割は大きい

テレビや映画といった既存のメディアにおいては、リバイバルブームに関係する要因はあるのでしょうか。

「子どもの頃から多くのコンテンツに触れてきた世代が成長して、コンテンツの作り手側になり、かつて好きだったものを懐かしんでリバイバルする作品を作れるようになったことも影響していますね。仮面ライダーやウルトラマンなど、子どもの頃に浴びるように観てきた作品を再解釈・再構築した、監督・プロデューサーの庵野秀明さんがその代表格です」

さらに、何十年にもわたって何度もリバイバルブームが繰り返される背景には、日本の社会情勢が関係しているのではないかと難波先生は指摘します。

「先行きが見えない時代がずっと続いているので、過去に意識が向くのかもしれません。閉塞感のある時代だからこそ、みんなが素晴らしい未来を信じていた頃が、大人にとっては懐かしく、若い世代には新鮮に感じられるのではないでしょうか」

再評価・再編集から新しい何かが生まれ続ける

「リバイバルが起こるのは、先行きが見えない時代だから」と聞くと、どうしてもネガティブな印象を持ってしまいますが、「過去を振り返るのは決して悪いことではない」と難波先生は語ります。

「これまでずっと、過去のものを組み合わせて新しい何かを生み出そうとし続けてきたはず。ただ懐かしんで『懐古』しているわけではなく、過去のコンテンツを『回顧』し再評価・再編集して、ちゃんと新しいものが生まれていますから」

さらに、難波先生は中国での宝塚歌劇団ブームを例に挙げ、こう語ります。

「最近、中国からの留学生で、修士論文のテーマとして中国の宝塚ファンダムを取り上げた人がいました。中国では誰が人気なのかとたずねると、驚くことに天海祐希さんだと言うんです。日本では『そういえば昔は宝塚にいた人だな』というイメージでしょうが、中国には過去のコンテンツも同時にたくさん入ってきているので、今現役のトップスターと、鳳蘭さんや天海祐希さんとが同列で並べられて評価されているそうです。そうやって日本の過去のコンテンツが思わぬところで再評価されることもありますから、リバイバルを悲観する必要はないですよね」

時には、学生が昭和や平成について語るのを聞いて「それは誤解では?」と感じることもあると笑う難波先生。しかし、「誤解や誤読から再解釈が生まれるのもアリだと思う」と楽しそうに話します。

「今あるコンテンツが、この先いつどんなふうに再解釈・再評価されるかはわからない。つまり、コンテンツは生み出しては消えていくものではなくなったと言えるかもしれません。すでにいろいろなコンテンツがある中で、何を掘ってきてサンプリングして、どう組み合わせるか。ゼロから何かを生み出すのではない文化のあり方に変わってきているのではないでしょうか。ですから私は、リバイバルをネガティブには捉えていません。これからも『古いものは捨てれば良い』という発想ではない世の中であってほしいなと、現在大学図書館長を務めていることもあって、強く願っています」

取材対象:難波 功士(関西学院大学社会学部 教授)
ライター:藤原 朋
運営元:関西学院 広報部
※掲載内容は取材当時のものとなります

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